千歳アイヌ文化伝承保存会(石辺勝行会長)はこのほど、千歳に伝わるアイヌ民族の神謡(カムイユカラ)を絵本「めだまの神さま」にして発行した。市内の佐藤宣賢さん(75)が切り絵を手掛け、同保存会理事の中村勝信さん(76)がアイヌ語と対訳を監修。アイヌが神としてあがめたシマフクロウとサケとの関わりを通して自然に畏敬の念を抱くことの大切さを説く内容。民族独自の世界観を情感豊かな切り絵で表現した作品となった。
物語は山に住むシマフクロウが浜に下り、川を遡上(そじょう)しようと岸に近づくサケの群れと出合うことから始まる。サケの神はシマフクロウを見て「恐れ多い神さまがいらっしゃる。静まりなさい」と他のサケに呼び掛けるが、一部のサケがシマフクロウの特徴である目を「こんなでかい目玉をしたものが恐れ多いものだというのかい」とからかう。怒ったシマフクロウは金と銀のひしゃくで海水をくんで枯れさせ、サケたちに無礼な振る舞いを反省させる―という内容だ。
一部の者の身勝手で仲間たちが迷惑する、人を見た目で判断してはいけない―。そんな教訓が盛り込まれている。千歳の伝承者、故白沢ナベさんが語った神謡だ。
絵本作りのきっかけは昨年2月に市内で開催された「生涯学習フォーラム」。佐藤さんが所属する「布の絵本『ゆめの会』」と保存会のブースが隣り合わせだったことから、中村さんと佐藤さんが知り合った。
独学で切り絵を学び、40年にわたる制作経験がある佐藤さん。鋭さと寛容さの両方を併せ持つ目のシマフクロウに魅了され、作品化してきた。切り絵を見せたところ、千歳書道協会会長も務めた中村さんは「これは『本物』だと思いました。遠近や線の強弱、太さや細さがはっきりしていて素晴らしかった」。千歳の神謡を後世に残そうと、絵本作りの構想が浮上した。
原画18枚分の切り絵は佐藤さんが担当。デザインカッターを使い1ミリ単位で紙を切る作業を進めた。サケの顔つきやうろこを描くのが難しく、原画1枚の完成に4~5日。強い眼力のシマフクロウやサケの躍動感を表現し、樽前山や風不死岳といった地元の風景も描いた。
原画はカラーだが、絵本はあえて白黒にした。「自然の山や川の色を自分なりに(想像して)感じてほしい。子供たちには読み終わったら、色を塗って絵本にしてもらいたい」。佐藤さんの思いが込められている。
中村さんはぶどう膜炎症のため、昨年8月下旬に失明。視力を失う直前まで、最終段階の校正作業に臨むなど絵本づくりの中心となって取り組んだ。絵を見たり、文章を読んだりすることはできない。だが完成した絵本を手に成果を実感する。
「めだまの神さま」はA4判で250部を印刷。市内小学校などに配布した。非売品だが市立図書館で読むことができる。佐藤さんは「これからもカムイユカラを絵にしたい。でもアイヌの生活がまだまだ分からないので、勉強中です」と今後の創作にも意欲的。中村さんも「人を見た目で判断しない。神を大切に敬うことを伝える神謡。読む人にアイヌの精神文化を理解してほしい」と願っている。