千歳市にある世界文化遺産の国内推薦候補、キウス周堤墓群にまつわる情報発信のための映像制作が進んでいる。市と市民活動団体「キウス周堤墓群を守り活(い)かす会」(通称・キウスの会)が取り組む市民協働事業。現地では周辺の環境やインタビューの収録が行われ、参画メンバーが所有地内に周堤墓群の一つ、6号墓がある鈴木昭廣さん(76)を取材するシーンも撮影された。
収録に立ち会ったキウスの会会長の大江晃己さん(78)は来年の世界遺産化に思いをはせていた。「ユネスコの決定があれば国内外から人が大勢来るときの対応も考えなければならないが、映像を通じた情報発信で縄文文化の素晴らしさをまずは発信していきたい」と意気込む。
周堤墓群は国史跡で、約3200年前の縄文時代後期に造られた集団墓。掘り上げた土を周囲にドーナツ状に積み、中心に遺体を埋葬する形式の墓「周堤墓」9基がこれまでに確認されている。
今年7月、文化庁の文化審議会が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の2021年世界文化遺産登録を目指す国内推薦候補としてキウス―を含む「北海道・北東北の縄文遺跡群」(北海道、青森、岩手、秋田3県)を決定している。それまでに6度、推薦が取りざたされていて、「7度目の正直」に喜びが広がった。
映像制作は市教育委員会との協働事業として昨年度来の2カ年で行われる。完成した映像は同会のホームページ掲載や市埋蔵文化財センターでの活用を計画している。
公募に応じた人も含め、9人が関わっている今年分の制作は今月上中旬にかけて集中した。映像構成を考える会議のほか、撮影、テロップ内容、音楽をかぶせるなどの編集を進める。映像ディレクターとして番組制作に携わってきた、北海道大学高等教育推進機構特任准教授の早岡英介さん(47)=科学コミュニケーション=が指導中だ。
現地撮影では、墓群が広がる森の中で、この地に暮らし幼い頃から遺跡に接してきた鈴木さんに、カメラを手にした早岡さんらが質問を投げ掛けた。
周辺の地形といった自然環境に加え、完全、不完全問わず数多く見つかっていた「石棒」や土器の破片など、さまざまな遺物に関する知識や記憶を収めていった。早岡さんは「鈴木さんの話を聴く機会をきっかけに、映像で地域の魅力をもっと知ろうという機運を盛り上げたい」と語った。
作品内のリポーター役はキウスの会会員の廣島潤子さん(54)。周辺の土地よりも低い地面が堤に囲われた様式の周堤墓で感慨深げで「6号周堤墓に初めて来ることができたし、この辺りを見渡せる丘にも登れた。こういう環境の中で、縄文人は聖地を決めたのかと思えた」と言う。
「意味ある土地」に気付いて暮らし、遺跡に親しみつつ森を整備してきた鈴木さんは収録を終えて、「取材を受けながら改めて思った。ここの4代目として、土地を守ってきたことは良かった」としみじみ語った。完成作は来年予定される千歳市教育委員会のイベントで上映を目指す。