(2) 画家・山田啓貴 記憶の底の情景呼び起こす

「ペコ立像 6歳」2015年制作

  苫小牧市生まれ、札幌市在住の山田啓貴(1978~)は、モノとそこに宿された記憶や印象深い情景を描く画家だ。作品は、卵と油を混ぜた媒剤で顔料を練るテンペラと、油絵の具を併用する混合技法を用いた着彩の繰り返しにより成立する。古典的な技法と相まって、懐古主義的な主題を扱う絵画表現は、見る者の郷愁を促す。

   入念に描き込まれた静物画は、いわば自身の記憶の断片を練り込んだ「タイムマシン」。幼年期に親しんだゲーム機、食品、玩具といった思い入れの深いモノや、家族と過ごした場所にまつわるモノなどが、題材として扱われている。

   不二家のキャラクターをモチーフとする「ペコ立像 6歳」もそうした作品であり、家族と過ごしたレストランでの団らんや、帰りの車内での会話など、何気ないひとときの多幸感が垣間見られる。人形の足元に置かれたミルキー・キャンディーと相まって、甘い味覚と共に幼年時代の記憶が立ち現れてくるようだ。

   山田は単体のモノに焦点を当てると同時に、背景をセピア色などの古色で描くスタイルを多用する。その透徹した手法を用いる背景には、対象となるモノ以外の気配についても感じ取ってほしいという意図があるという。個人的な記憶を表現しながらも、見る者に記憶の奥底にある情景を呼び起こすゆえんは、そうした想像力を喚起する余白にあるのかもしれない。

  (苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)

過去30日間の紙面が閲覧可能です。