「かずをはぐくむ」/森田真生著、西淑(絵)/間違えるという豊かさ

  • LA, 文芸1
  • 2025年6月3日

 生まれたばかりのわが子が、いつか言葉を覚え、数を数えたり計算したりするようになる。2児の父親で、数学を修めた著者も、その日を楽しみにしていた。しかし、規則通りに計算するだけの機械より、新たな概念が芽生える瞬間に立ち会える物語の方が数学の本質に近いと考える著者は、子供たちのたわいない言動の中に、数を操れるだけにとどまらない数学の心が芽生えていくことを見て取り、併せて自身の物事の捉え方を見直すようになった。

 5年間の日々の発見を書き留め、月刊誌「母の友」に連載したエッセーをまとめたのが本書である。ほっこりした挿絵が著者の世界を可視化している。

 1歳半の次男は何かを指さしながら「いっしょ」という言葉を発するようになった。図鑑にある車と自分のおもちゃの車や、お兄ちゃんと自分の食べているものを指しているのだが、「このリンゴ」も「あのリンゴ」も「いっしょ」だから数えることができる。A=Bとは、異なる事物の中に潜む「いっしょ」を意味している。「いっしょ」を見つけていく試みである数学に、次男はこのような形で関わり始めた。

 小学生になったばかりの長男の宿題には、〇か×かの判定が下る。王様を「おうさま」としたり13+17=29としたりすれば×だ。世の中は窮屈な規則で縛られているが、著者はそこに、間違うことができる世界の豊かさを感じ取る。間違いと判定できる厳密な構造を共有しており、人間同士の意見交換や数値のやりとりが適切にできるからである。たくさん間違えて、規則を身につけ、その構造の中で自由に動けるようになれるのだから、間違えることは大切だ。その上で、既成の構造を突き破り、未来を切り開いていくのであろう。

 何かと効率が求められる今日、わが子の発育が遅いといら立つこともあろう。そういう時、ぜひ本書を開いていただきたい。子供たちの成長を実感するためのヒントが必ず見いだせるはずだ。

 (中根美知代・成城大非常勤講師)

 (福音館書店・1980円)

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