変だな。昨日と違う、なぜだ?……。ロッドの先端がずいぶんとたわむ。ルアーはこれ一種類と決めているから同じものを5個買ってある。昨日使ったものを休ませようと思い、その隣の同じルアーを付けたのだった。妙だと思いながらサーフに立った。1投目。リールのスプールを開放し、ラインを指で押さえる。ルアーの重みを押さえきれない。リールの取り付け位置がおかしい気がする。構わずキャスト。ラインの押さえが効かないものだから、すっぽ抜けて近くにポチャンとルアーは落ちた。第2投。人差し指一本で押さえていたラインに中指も動員して、押さえないで、指に引っ掛けてみた。キャスト! まあ、合格点だが、いつもの「小気味よさ」がない。借りものを使わされているようで、まったくあずましくない。
風もない。波も収まった。潮は満ちてきている。絶好のコンディションだ。周りには人っ子一人いない。サクラを釣った実績のあるこの場所、この時期だ。いれば、絶対に食ってくる。高いところからサクラのルアーアタックを目の当たりにしたことがある。ルアーが着水して動いた瞬間だった。5メートルも離れたところにいたサクラが目にも留まらぬ速さでルアーに襲い掛かった──。いれば一発で食ってくる。経験から得た確信だ。気がはやる。不具合と言うのか、こういうのを何と言うんだっけ、あずましくないはさっき使った。案配が悪い、勝手が違う……か。ロッドを振っても「ビシッ」という感じで飛ばない。何回もすっぽ抜ける。いよいよ俺もヤキが回ったか。こんなに手こずるのは初めてだ。ロッドがいつものアクションをしてくれない。モヤモヤが怒りに変わっていく。己にか道具にか、怒りの矛先を向けるのは……。
キャストの瞬間、強い衝撃があった。ラインが切れ、虎の子のジグミノーが飛び去った……。キャス練に持ってきたフライロッドでねぇの、ルアーロッドではなく……。あきれるのを通り越して悲しい。
(農民文学賞作家)
このフライロッドでルアーを投げた