最初の一匹/▷633

  • 組版, 釣リ倶
  • 2025年6月19日
金色のアメマス

 自分だけがボーズを食らったという屈辱的な結果に、寝床に入ってもあれこれと考えた。フローティングラインに沈むリーダーをつけたシステムが機能しなかった。このシステムで島ジイは釣果を上げていたことを知っているから、リールにそのまま巻いてあったこれを使った。ズボラな性格が丸出しだ。

 浮かせるか、沈めるか。その中間に「インターミィディアム(インタミ)がある。浮くのでもなく、沈むのでもない。どっちつかず。前日、釣れない内心の動揺を隠してさり気なくK氏に聞いた。「ラインは何使ってるんですか?」。「インタミです」。Y氏にも同じことを聞いた。2人ともインタミ……。その答えに絶句した。両氏ともインタミは「水噛(が)みがいい」と言った。難しい言い方だが、狙ったポイントに毛鉤(けばり)を絶妙な深さに運んでくれる─みたいな感じ。最近、視力が極端に落ちているので水に浮くことで視認性に優れているラインを使わざるを得なかった理由はある。しかし、釣ってなんぼの世界である。今日も指をくわえて仲間の釣果に賛辞を送っているのはこりごりだ。

 使っていた13フィートのグラスロッドから10Fのバンブーロッドに変えた。このロッドは某氏に特注して作ってもらった2本のうちの1本だ。持ち重りはするがパフォーマンスはそんじょそこらのロッドの比ではない。魚が手前のポイントに着いていることもあって短いこのロッドで勝負に出ることにした。朝イチは場荒れしていないので大きなフライを結ぶ。熊の毛で巻いた「熊五郎」だ。前日の惨たんたる結果を知っている仲間は、先行させてくれた。第1投。2年ぶりのバンブーに戸惑う。飛ばない。周囲の目を気にしながらキャスト。なるほど水噛みがいい。さあ、来い! 胸の中で叫んだ。フライがポイントを過ぎようとしたとき、重く鮮明なアタリが手に届いた。2年ぶりの手応えだ。心臓を吐き出しそうになった。最初の一匹に鳥肌がたった。(農民文学賞作家)

 金色のアメマス

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