ヘラブナ釣り用の浮き。工芸品の美しさを備える その日のあたりを探す―。一筋に釣り続け、50年を超えてなお追い求めるヘラブナ釣りの「解」。試行と経験を積み重ねて高みに至る一つの「道」のようともいえる。苫小牧市樽前の地蔵沼をホームグラウンドに、四季を通してヘラブナ釣りに向き合う白老町の吉国寿郎さん(74)にこの釣りの魅力を聞いた。
地蔵沼は東胆振などのヘラブナ釣り愛好者が自主管理している。樽前ガローにほど近い森の直径200メートル弱の水辺だ。愛好者団体が地主の了解を得て稚魚を放流し、釣り台や木道を手作りするなどして自然と釣りの環境を維持している。
吉国さんはもっぱらここに通う。活性が高い春の「のっこみ」はもちろん、結氷して魚の活性が極端に下がる冬もさおを出す。
釣り人は考える。気温、天気、風の向きや強さ、時間帯、水位…。「前の日と同じ場所、同じ時間、同じ仕掛け、同じ棚、同じ餌でも釣果は一転する。晴れか曇りか、風があるかないか、気温が高いか低いか。その日、その時、その状況に応じた釣りがあるんです」。〝スイッチ〟が何かを探る。
取材の日、吉国さんは11尺(3・3メートル、4本継ぎ)のさおにナイロン1号の道糸を結び、同0・5号の針素の先にヘラスレ5号針を付けた。針はばらけと食わせの2本段差。ともに練り餌を付けて打ち込む。
一拍置いて全長30センチの浮きが水面にスッと立った。浮きのトップはごく細いパイプだ。そこには水中でほぐれて針から落ちてゆく餌の状態が読めるよう、等間隔に目印がある。浮きは揺れたり、上がったり、素早く沈んだりする。吉国さんは浮きのかすかな変化を捉えてポンポンと釣り上げていく。はたから見ればいかにも簡単そうに。
魚信は多様だ。釣り人はその動きで魚と交信する。さわっただけか、くわえたか、ヘラか外道のマブナか、口かスレか、型物かレギュラーサイズか。光沢と体高のある型物を狙うヘラ釣り師たち。キャッチアンドリリースの釣りでは数も大きさも勲章になる。
だが釣りの楽しみは記録や勲章ではない。吉国さんは「会社勤めを始めた頃、先輩に連れられてヘラブナ釣りをし、先輩より釣ったのがうれしくてこの釣りにはまった」と振り返りながら、「自分なりの考えで釣れたときの達成感が一番。釣りは探求の連続。それは仕事にも人生にもつながるよね」。浮きから視線を外さずに穏やかに語った。