むかわ町花園で「鵡川ししゃも」を取り扱う水産加工品販売店「スズキ」が、31日をもって閉店する。全国のシシャモファンから親しまれてきた老舗だが、一代で店を築き上げてきた社長の鈴木譲さん(88)が腎臓の病気を患い、約70年の歴史に幕を下ろすことを決めた。「お客さんがついて来てくれたから続けてこられた」と感謝の思いを語る。
スズキは、約70年前に創業。町特産の鵡川ししゃもを全国各地に届け、「カツオしょうゆ」などを店のブランド商品として販売。町内でシャッターを下ろす店が一つ、また一つと出てくる中、外壁で「日本一話我侭(わがまま)な店」とうたい、自信とこだわりの商品を提供することが口コミで各地に広がり、多くの客に支持されてきた。
2018年9月に発生した胆振東部地震では冷蔵庫が倒れて使えなくなり、シシャモが傷むなどの損害を被ったが、それでも3日後に営業を再開。ほぼ休むことなく「無我夢中」で営業を続けてきた。東京都内の明治神宮で開かれる秋の例大祭にも同店のシシャモを41年間送り続けている。
しかし、1年ほど前から自身の体調不良で、通院を断続的に繰り返していた。店は開けてきたが、家族への負担を考慮し、閉店という苦渋の決断をした。「病気で医者から『店を続けるのは難しい』と言われた時にはガクンときた。ただ、やめる時はいつか来る、と納得させようとはしていた」と言う。「閉めるのはもったいないけれど、これだけの店にしたから」と胸を張り、全国各地のリピーターから次々に寄せられる「やめないで」の声に「うれしくなるね」と頬を緩める。
店自体は閉めることになるが、鈴木さんが社長を務めてきた有限会社丸ススズキの経営は今後、町内でタイ焼き店を営む工藤弘さん(69)が譲り受け、スズキで販売していたしょうゆなどを取り扱うという。
「商売は良い時ばかりでないから大変だったが、好きだった。元気だったら続けていた」と長い年月をしみじみ振り返る鈴木さん。「きちんとしたものを出せば、お客さんがお客さんを紹介してくれた。いいお客さんを持っていた」と表情を和らげた。