アイヌ民族の文化伝承者として知られる埼玉県在住の宇梶静江さん(88)が11月にも白老町に移住し、アイヌ文化発信の活動に携わる。同町東町の民家を拠点とし、来年から支援者らと共に体験や交流の施設を運営する。宇梶さんは「アイヌ民族の精神性や知恵を学び、役立ててもらう人づくりの場にしていきたい」としている。
宇梶さんは、道内のアイヌ文化研究者や東京の出版社社長ら支援者と共に16日、白老町を訪問。東町にある木造平屋建ての民家を借り、活動の拠点とすることを確認した。約660平方メートルの敷地には住居と倉庫の建物があり、伝統的な踊りや料理などアイヌ民族の世界観や生活文化に触れてもらう場に活用する。寝泊まりできるスペースも用意し、施設の運営は利用料や寄付で賄う。宇梶さんや支援者らは今後、法人格の運営団体の立ち上げを目指す考えだ。
アイヌ刺しゅうを古い布に施す古布絵(こふえ)作家で、詩人でもある宇梶さんは浦河町出身。23歳で上京し、関東地方のアイヌ民族4団体でつくるアイヌ・ウタリ連絡会代表を務めた。伝統文化の普及活動に携わりながら、アイヌ民族への差別や偏見と闘い、首都圏から権利回復を訴える運動に奔走した。長男の宇梶剛士さんは個性派俳優として活躍し、民族共生象徴空間(ウポポイ)のPRアンバサダーも務めている。
人とのつながりの中で白老町に移り住むことを決めたという宇梶さんは「ウポポイもある白老でこれから活動していきたい」と話す。国の同化政策で権利や伝統の営みを失い、差別も受けたアイヌ民族へ常に心を寄せ、「苦しみを解きほぐし、文化の復興、民族の誇りを取り戻す場にもしていきたい」と意気込む。
イオル(伝統的生活空間)再生など野外活動の場所も見つけるため、17日には白老アイヌ協会の山丸和幸理事長の案内で支援者と共に町内の旧森野小学校跡などを視察した。
山丸理事長は「さまざまな人生経験を持つ宇梶さんからアイヌの若者たちも学び、生かしてもらいたい。白老のアイヌ文化振興にも大きなプラスになる」と期待した。
宇梶さんの活動に関する問い合わせは、「アイヌ学を立ち上げる会」の井上千晴さんへ。メールainugaku@gmail.comか、携帯電話080(5459)7788(平日午前10時~午後5時)。