奥深きアイヌ文化伝承 白老の大須賀さん金成マツの筆録を解読、翻訳 「ウエペケレ8話の研究」を発刊

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  • 2020年5月20日

 白老町の「白老楽しく・やさしいアイヌ語教室」を主宰する大須賀るえ子さん(80)は、アイヌ民族の口承文芸を収録した「金成マツ筆録・盤木アシンナン口述ウエペケレ8話の研究」を刊行した。登別出身の口承文芸伝承者・金成マツ(1875~1961年)がローマ字で書き残したウエペケレ(散文説話)の原文を解読し、翻訳した。大須賀さんは「マツが筆録したウエペケレの翻訳を今後も進め、アイヌ文化の奥深さを伝えたい」としている。

キリスト教伝道者でもあった金成マツは、アイヌ民族の物語を初めて文字化した「アイヌ神謡集」の筆者として知られる登別出身の知里幸恵(1903~22年)の叔母に当たる。アイヌ語研究の創始者で言語学者の金田一京助(1882~1971年)の勧めでユーカラ(叙事詩)など口承文芸の筆録に取り組み、1959年に「アイヌ叙事詩ユーカラ集」を刊行した。

 マツが記録した100編のユーカラは、アイヌ文化研究者らの手で翻訳が続けられたものの、160編のウエペケレについては未訳のままになっていた。このため、アイヌ語学習や口承文芸研究を行う同教室が日本語に訳して世に出すことを決意。マツがアイヌ語口述をローマ字で記した肉筆原文をマイクロフィルムで保存している道立図書館に出向き、コピーした原文の翻訳作業に昨年4月から取り掛かった。

 大須賀さんら教室メンバー7人が解読と訳文に挑み、マツが1932年に登別のアイヌ女性盤木アシンナンの口述を書き留めた8話を今年2月までに翻訳。公益財団法人アイヌ民族文化財団の助成で製本し、刊行した。

 アイヌ語のローマ字表記とカタカナ表記、日本語訳を載せたウエペケレ8編の題名は「婦人が家の周りで火を焚(た)く」「貧しい爺と婆の口喧嘩(げんか)」「感冒の神と一緒に宝物を見せ合う」「我が娘が私を悲しませた」など。アイヌ民族が親から子へと語り継いだ物語だ。

 刊行した本は、B5判255ページで200部印刷。町内の小中高校や町立図書館などに寄贈したほか、国内の図書館やアイヌ文化研究者らに配布する。

 同教室は今年度も引き続き、マツが筆録した「ウラシベツの首長が語った話」「悪叔父が我を山猟に行かせる」「黄金のとっくりの食事」などウエペケレ5話を翻訳し、本にまとめる予定。作業を主導する大須賀さんは「ストーリー展開が非常に面白く、書き手のマツの文学的才能を感じさせる。今後も未発表の物語の解明に挑戦していきたい」と話す。

 同教室は2004年以降、口承文芸やアイヌ語方言などの研究成果をまとめた本の出版を続け、今回で15冊目となる。昨年は、白老出身でアイヌ民族の三大歌人とされる森竹竹市(1902~76年)が書き残したウエペケレを紹介した本を出した。

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