環境省が「日本の重要湿地」に選定している白老町のヨコスト湿原について、町は保全に向けた自然環境調査を実施する方針だ。湿原の乾燥化や外来植物の侵入、ごみの不法投棄などで貴重な自然が脅かされている中で、湿原の現状を詳しく把握し、対策を講じる考え。国の交付金など財源が確保できれば、今年度にも調査に着手するほか、専門家や関係団体との協議で湿原保護の方向性と手法を見いだす。
沼地や草原、林など多彩な自然環境を形成し、絶滅危惧種を含め多種多様な動植物も息づくヨコスト湿原をめぐっては、周辺地域の土地利用の影響や流入河川の水量低下などで乾燥化が進んでいる。また、オオアワダチソウなど外来植物の分布拡大で、貴重な在来植物が駆逐される問題が顕在化。ごみの不法投棄や、湿原の植物を車で踏み荒らす人為的行為も環境を脅かしている。
湿原の生命線とも言える河川の状況については、町生活環境課の職員が今年2月、目視で確認したところ、ポロト湖奥地を源にしたウツナイ川の流れが悪くなっていることが判明。湿原の乾燥化を招くため、詳しい調査と早期対策の必要性に迫られていると判断したという。
不法廃棄物の撤去や外来植物の抜き取りといった保全活動は、主にヨコスト湿原友の会(中野嘉陽会長)など市民団体が担っている。だが、環境悪化が進む湿原の保護は、町民のボランティア活動だけでは限界があり、白老の貴重な自然を守るため、町も本腰を入れる考えを固めた。
戸田安彦町長は、町議会3月定例会での町政執行方針演説で湿原保護を表明。担当の生活環境課が取り組みの方向性を検討している。
定例会では、森哲也氏(共産)の質問に戸田町長が「(保全に関して)専門家の意見を聞く場を検討したい」との考えを示したほか、町の担当者がウツナイ川の流量低下を改善させる必要性を説明。こうした町議会での議論も踏まえて町は、ヨコスト湿原の現状を詳しく把握するため、専門機関に委託した自然環境調査を実施する方針だ。
町は2011年1月に自然環境調査報告書を発行しているが、その後は調べていない。前回との比較で環境がどのように変わったか―などをつかむため、現在、調査項目を検討中。交付金活用などで予算を確保できれば今年度内にも着手し、結果に基づき対策の手法を明らかにする。
また、時期は未定だが、専門家や町民を交えて保全の在り方を考える組織の立ち上げも考えており、町は「全体スケジュールの設定はこれからだが、ハード、ソフトの取り組みで湿原を守り、次代につなげたい」としている。
■ヨコスト湿原
白老町日の出町と社台にまたがる低層湿原で面積33ヘクタール。自然海岸とその背後地に砂丘や沼地、河川、草原、林など複雑な自然環境を形成。それぞれの環境に適応する動植物も多種多様で、これまでに植物463種、野鳥64種、昆虫209種が確認され、絶滅危惧種も少なくない。2016年に環境省が「日本の重要湿地」に選定。北海道の自然環境保全指針では「優れた自然地域」とされている。アイヌ民族が利用した場という史実から、民族共生象徴空間(ウポポイ)の周辺関連地域にも位置付けられている。