白老町の「萩の里自然公園」で、エゾシカによる自生植物への食害が続いている。国の絶滅危惧種に指定されている草花の被害も新たに確認された。多様な動植物が生息し、重要な里地里山として環境省に選定されている貴重な自然環境の危機を受け、関係者は保全対策の必要性を訴える。
同町萩野・石山地区に広がる萩の里自然公園(約200ヘクタール)は、町が1998年から10年計画で整備した都市公園。森林の手入れなどは、町民が中心となった管理運営協議会が担っている。公園として整備する前に、町が95年から97年にかけて実施した環境調査では、絶滅の恐れがある種を含めた98科523種の植物の他、哺乳類5科9種、鳥27科67種、昆虫105科423種を確認。多様な生物が息づく一帯として、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」に選定されている。
国も注目する豊かな自然環境を誇るものの、近年、エゾシカによる植物被害に見舞われている。白老で発見された種シラオイエンレイソウをはじめ、ツリガネニンジン、アザミ、オニシモツケ、シラヤマギクといった草花が次々に食害に遭い、環境が大きく変化。協議会が2017年に調査したところ、希少種シラネアオイも危機的状況に陥ったことが判明した。このため、同協議会は、漁業者から提供された漁網で草花を囲い、一部の希少種も囲いの中へ移植するなどして食害を防止。町は18、19年度に国の交付金を活用し、シカ侵入防止柵を設置する対策を打った。
自然公園内の5カ所に設けたシカ柵は植物保護に一定の効果を出しているものの、公園全体での被害は止まらない。自然更新の木々の芽なども食べられ、森林の植生が脅かされている。協議会の鈴木靖男会長によると、環境省が絶滅危惧種に指定しているクマガイソウの被害も新たに確認したという。
エゾシカは白老町内でも生息頭数が増えている状況にある。町の担当者は「毎年10月に実施している生息調査ではここ10年、その前と比べて2倍以上の頭数になっている」と言う。増加に伴って自然公園の危機も増している。
食害問題は8日の町議会定例会一般質問でも取り上げられた。森哲也氏(共産)が対応策を求めたものの、町は「協議会と連携して保全に努め、シカ柵の設置も引き続き考えたい」と述べるにとどまった。
協議会は今後、漁業者からもらい受けた漁網でシカ柵を補強するなど、町民の手による可能な範囲で対策を取る考え。鈴木会長は貴重な草花が消えつつある実態を憂い、「郷土の自然を守る手だてがより必要だ」と強調する。