〈10〉 「白老の未来の景色、新しい伝統を共創する」

  • 土地と人と 地域創造への挑戦, 特集
  • 2019年11月22日
朝日を浴びる白老町のアヨロ海岸=撮影・瀧谷栄

  町の魅力発信や着地型観光メニュー、移住定住政策や教育福祉の振興、アイヌ文化の理解普及、空き店舗対策、地域コミュニティーの再生、集落対策や関係人口の拡大―。そうした課題への打開策に多くの市町村が悩みを抱えている。それらは、文化活動が得意とする課題だと私は考える。どれをとっても人の心を動かすことが大切であり、人々の心に届かせる戦略が欠かせないだろう。

   住民や観光客の幸福感、充実感の先にあるのは、持続発展的な経済効果ではないだろうか。そんな”感動産業”を白老町で生み出していくには、やはり少数や個の力ではかなえられない。今こそ産学官民が共鳴することや、第三者や若者層といった新しいエネルギーと、もともと地元にあるエネルギーとの共創がその成果へ導く鍵となる。

   新しい風に向き合う勇気と、違いを尊重し受け入れる度胸、多様な価値観を享受し合える寛容で温かな雰囲気を町全体で生んでいくためには、どうしても個々の固定概念や先入観を超えていかなければならない。私自身も札幌と白老の二重生活者の一人として、町の知らない現状も多いし、凝り固まった持論も持っている。協働による未来の可能性を展望しつつ、人々と共有するためには、これまで以上にお年寄りや地元産業界の方々、子育て世代や教育福祉の現場からの声を聞き重ねていきたい。

   協働や共創には、明るい未来を描くことができる。目の前にいる仲間はご近所同士、町内会同士、東西に離れた地域間同士、同業者同士、活動グループ同士、会派を超えた議員同士、分野を超えた産業界同士などではないか。再び手を組んで「今」に向き合い、「未来」の白老のためにたくさんの”可能性の種”をまく。その種の成長をみんなで気に掛け、水や光を与えて育み続ける。いつの日か、子や孫たちがその果実をおしいく頬張り分け合えられるように。

   卒業後、一度は地元を離れる中高生。他のまちで多くを吸収し成長したいつの日か、再び白老へ帰ろうかと考えるときが来る。この町で自分らしい生き方を見つけ、やりがいを見い出しながら暮らす、そんな格好いい大人たちが白老にはたくさんいる。中高生たちへ、そうした原風景をつくってあげたい。

   雪が解けたら、すぐそこに新しい景色が待っている。その景色をただ眺めているだけではいけない。意志ある町民と多様な第三者とで、その景色を自分たちの手で共創するのだ。新しい白老を生むために立ち向かい、協働する大人たちの姿と変わりゆくその景色は、きっと子どもたちの目に、心に届くに違いない。今から始めることはやがて伝統になり、歴史になる。白老の底力の見せどころだ。

   (文化芸術事業プロデューサー・木野哲也)

   ※「土地と人と」はこれで終わります。

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