〈7〉 土地の文化は「博物館の外」に息づいている

  • 土地と人と 地域創造への挑戦, 特集
  • 2019年10月11日
住民と旅人と関係人口との交流を育み、商店街に新しい景色をつくる宿「haku hostel」(白老町大町)

  来春白老町に開館する国立アイヌ民族博物館には100万人が訪れるそうだ。正確には100万人「呼び込みたい」そうだ、と言うべきか。来訪者の関心興味、学びや教養、修学旅行生や社員研修、旅行客がたくさんの国と地域から北海道・胆振圏を訪れる際には、同博物館はきっと旅を有意義なものにする一コースになり得るだろう。

   私が個人的に感じているのは、多くの旅人の目的は博物館見学であり、白老町自体の観光や周遊を旅の計画には入れないだろうということ。見学後は隣町の登別温泉地、洞爺湖や函館方面、または札幌や新千歳空港に移動する旅人が多いのではないだろうか。とりわけ大型バスで移動する団体ツアーにとっては、ことさら白老町内を巡ったり宿泊する理由、またはその魅力は薄いのかもしれない。

   逆に白老町内を回遊する可能性が高いのは、少人数の旅人たちではないか。大町商店街に今春オープンした宿「haku hostel+cafe bar(ハクホステル+カフェバー」は、博物館の開館を前に多数の外国人旅行客が利用している。現に宿泊者は国際免許を取得してレンタカーで道内を巡る旅人、自転車での旅、JRで巡る道内の旅など、旅の目的や移動手段はさまざまのようだ。

   この宿は3000円台から泊まれるベッド(ドミトリー)を用意し、食事には共同キッチンの利用も可能だ。出費を抑えながら長く旅を楽しみたい旅人たちにとって、この宿の存在は大きい。宿泊者同士での旅先の情報交換、宿のスタッフとのコミュニケーションによって、地元の美味しいお店やお土産の情報、お勧めのスポットやイベントなど、地域ならではのローカル情報を得ることができる。これは旅人にはとてもうれしい交流であろう。

   1泊2万、3万円の高級ホテルの需要は今後大きくなっていくであろうし、そういう宿も当然必要なのだろう。宿泊者にはぜひとも、町にたくさんお金を落していってほしいと願うばかりだ。

   「博物館の外」に地域文化は息づいている。旅人とその目的は多様だが、人々の土地の暮らしや日常風景を感じる場面は、異国の旅人にとってはグッとくる瞬間だったりする。地元人の行きつけの居酒屋で食べる地物、スーパーでの買い物、子どもたちの登下校の風景、雪かきの様子、散歩で見た住宅地の夕焼け―。「博物館の外」にある白老町の何気ない風景の中に、土地に息づく文化がある。旅人たちには博物館見学後すぐさま移動ではなく、まずはJR白老駅南側の大町商店街を歩いてもらうこと、そして町内で一泊し一時間でも長く滞在してもらいたいと、私も願っている。同時に文化の力で観光や住民との関係づくりに一翼を担うことが、きっと出来るだろうと考えている。

   (文化芸術事業プロデューサー・木野哲也)

   ※「土地と人と」は毎月第2・第4金曜日に掲載します。

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