〈6〉 第三者との「関わり」から生まれる地域の未来

  • 土地と人と 地域創造への挑戦, 特集
  • 2019年9月27日
展覧会場の一つ、開店40年の喫茶店で行われた作家のアーティストトークの様子=12日、白老町の喫茶休養林

  この9月に地域資源を活用した「町内回遊・周遊」の新しい試みとして、白老町内で約10の文化芸術プログラムを15カ所以上の「場」で開催した。格好良く言うと「白老アートツーリズム」または「アートで巡る白老」とでも言えよう。

   各プログラムの方向性や規模は多岐にわたるが、いずれも地域資源と芸術家との掛け合わせを軸とし、プログラム構築に当たっては地域住民との「関わり」を重視した。内容は、町内のかつての一大産業であった木彫り熊に関する調査と展示、地域に残るアイヌの伝説や物語を平面作品にした展覧会、住民への聞き取り調査を原案に演出したダンスの舞台、昭和30年代の白老銘菓を題材にした脚本舞台、国内外2組の芸術家が地域に数週間滞在し作品制作した展覧会、町内外の人が講師となり得意分野を各授業として開講する夜間学校、住民や子どもたちとつくる森と海のパレードなど、とても幅広い。

   「場」となったのは、商店街の空きテナント、介護施設、公民館やコミュニティセンター、宿泊施設のカフェ、金物店、スーパーマーケット、喫茶店やレストラン、歴史資料館などだ。

   これらのプログラムは、白老に住所を持たない芸術家や文化事業の企画者たちが主導しているが、実現化へ向けた行程や準備のすべては、町内各地区の住民との協働で進められた。ここでは芸術家が主人公でもアートが主役でもない。芸術家たちは土地に滞在する時間の中で、そこに暮らす人々といかに「関わり」を持ち、当事者や協力者をつくっていき、時に住民自身がプレーヤーの1人となるような、共鳴や共創の場面を生んでいくことを描き過ごしていた。

   土地の歴史風土、人々が営む日常の風景や生活環境、さまざまな感情。芸術家たちは日々の光景や人々の声、まなざしを感じながら、一定期間その土地の暮らしに溶け込み、この土地でしかできない作品づくりを構想していく。私自身も主催・企画者の一人として芸術家に求めたいことは、既製品の持ち込みではなく、この土地の中でゼロからイチの創出と、人との「関わりしろ」を意識してほしいということだ。

   来年度100万人と言われるウポポイ来館者の観光が期待される白老町。私は「観光」一辺倒の方針ではなく、旅人・客人とそこに暮らす人々との「関係」づくりを意識した姿勢が地域に根付いてほしいと願っている。人と人との関わりには温度があり、心や記憶に残り、きっと続いていくはずだから。

   (文化芸術事業プロデューサー・木野哲也)

   ※「土地と人と」は毎月第2・第4金曜日に掲載します。

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