白老町は、民族共生象徴空間(ウポポイ)が開業する来春以降の文化政策について、いかなる方針を考えているのか。行政や町議会は地域資源を活用した各事業や町内周遊など地元の魅力発信にどれだけ具体的に施策を実行していくのだろう。
白老町の「ひとまちしごと創生総合戦略」の中に、「多文化共生社会の実現」「交流によるにぎわいづくり」「文化芸術団体活動の充実・支援、鑑賞機会の充実」「アイヌ文化等を生かした産業化推進」「空き店舗対策」「新たな観光体験プログラムの造成」「アーティスト・イン・レジテンス」等々あるが、これら施策の積極的な取り組みを町内で目にすることはほとんど無い。外部コンサルがはやりの地域創生の単語を列挙したような印象を拭えず、多文化共生を実現させるという町の姿勢が感じられないのは私だけだろうか。
飛生アートコミュニティーやウイマム文化芸術プロジェクトに携わる私たちが9月に開催した「木彫り熊」は白老町内の公共施設を会場に利用し、企画展としては過去最高の動員数を記録した。昨年スタートさせた白老で初の「アーティスト・イン・レジデンス(作家の地域滞在制作と発表)」では、招聘(しょうへい)した国内外4組のアーティストが町で暮らしながら地域資源を発見し、住民との協働で作品制作。空き店舗などで展覧会を開催した。また、多文化共生・多様性をテーマにした住民参加型の公開討論会もこれまでに2度開催し、町の未来をめぐって活発な意見交換がなされた。
アイヌ語地名を巡り、地域に息づく文化を学ぶ体験型散策プログラム「アースダイブ」は計6度企画し、いずれも満員御礼となった。地域のアイヌ民族の伝承や物語をモチーフにした作品展は、昨年に続いて今年も開催。多くの住民との会話を原案にしたダンス舞台公演は2度催した。
今月には白老小学校にアーティストが転校生として一定期間滞在し、作品を制作するプログラムも始まる。地元住民はこれらの活動のすべてに関わり、当事者として活躍する場面も多く、有機的な交流を生み出している。そして多様な価値観を享受し合い、住民の新たな居場所や仲間づくりの創出にもつながっている。
しかしながら、こうした民間の活動に対する町役場の協力や協働の姿勢は非常に薄い。せめて若手職員や地域振興の部署職員も参画し、企画や運営などで協働することは出来ないものか。共に町を歩き、町民との折衝を一緒に体験し、町の未来を描いていくことは出来ないものか。役場は自らの実績として、活動の効果を議会で発表し、町民に広く伝えてはどうか。また文化政策の推進へ向けた議論の契機としてはどうだろうか。
多文化共生の実現、多様な価値が共生する町の未来を、一体誰が先導し具体的に進めていくのか。意志無きスローガンであってはならない。ウポポイの誕生は、町にとって最大の変革のチャンスとも言える。役場が「前例が無い」「人がいない」「金が無い」といった理由を並べるだけならば何も前進しない。変革が求められる今こそ、町理事者や町議の方々には誇りある郷土、次代を担う子どもたちのために「変わる勇気」を持ってほしいと願っている。
(文化芸術事業プロデューサー・木野哲也)
※次回は22日に掲載します。