札幌市の企業が、白老町のアイヌ工芸作家が制作した木彫り熊の3Dプリント商品を開発した。木彫り熊の3次元データを入力した3Dプリンター(積層造形装置)で精巧に立体造形し、合成樹脂製のアクセサリーやミニ置物に仕上げた。受け継がれてきた伝統工芸と科学技術を融合した商品として、10月15日から白老のアイヌ文化発信拠点・民族共生象徴空間(ウポポイ)内の国立アイヌ民族博物館ミュージアムショップで販売する。
この企業は、障害のある人たちや福祉施設と連携して商品の企画や製造、販売を手掛けるエムブイピークリエイティブジャパン(大海恵聖社長)。木彫工芸作家の山田祐治さん(67)=白老町高砂町=と協働し、新しい商品を誕生させた。
開発に当たっては、山田さんが制作した「吠(ほ)え熊」「鮭喰(く)い熊」「座り熊」の木彫り作品3種を道立総合研究機構工業試験場(札幌市)で3次元のデジタルデータ化し、3Dプリンターに入力。UVレジン(合成樹脂)を原料に立体造形し、形や毛並みに至るまで極めて忠実にオリジナル作品を再現した。工業試験場では、日光による劣化具合を調べる試験も行い、ピアス(税別1500円)、チャーム(同700円)、体長数センチのミニ置物=オーナメント=(同800円)の商品を完成させた。色は赤、緑、水色、黒の4色を用意し、札幌市内の福祉団体や関係者とのネットワークを生かして製造を進めている。
白老町では昭和期、木彫り熊作りが盛んに行われ、職人も多数いた。観光ブームに乗って一時は飛ぶように売れたものの、やがて下火となり、今では山田さんを含めて職人もわずかしかいない。白老で育まれてきた伝統工芸の存続が危ぶまれている状況にある。
こうした中で、培われた木彫りの技を3次元のデジタルデータとして保存し、いつの時代でも3Dプリンターで再生できるようした取り組みについて、大海社長は「テクノロジーの活用で山田さんの技を後世に残せ、再現できる。そこに大きな意義がある」と言う。
木彫り熊をはじめ、アイヌ伝統工芸の作品を数多く制作し、さまざまな賞を受賞してきた山田さんは「毛並みの1本1本まで、これほど精巧にオリジナルを表現できるのはすごいこと。博物館見学の子供たちがお土産として買いやすい価格設定もいい」と話した。
商品のブランド名は伝統工芸と科学技術の融合、継承をイメージし、アイヌ語で「結び目」を意味する「SINKOP」(シンコプ)とした。アイヌ工芸の木彫り作品は近年、海外からも注目を集めるようになり、同社は今後、山田さんが制作したサケやフクロウなどの作品を加えた商品のシリーズ展開も考えているという。