「今思えば…」
徳田愛美容疑者(28)=死体遺棄容疑で逮捕=が暮らしていた苫小牧市北光町の住民も、心配に感じる場面に遭遇していた。
近所に住む50代の男性は、夜間に2、3時間ほど1人で外出する徳田容疑者の姿を何度も見掛けていた。男性は「服装からして、仕事に行っているようだったが、子どもたちだけで留守番しているのかな、と心配していた」と話す。
別の男性は、パンをかじりながら登校する小学生の子をたびたび見掛けていた。「どうしたの?」と尋ねると、子どもは「お母さんが昨日、仕事で帰りが遅くて、まだ寝ていたから…」と答えた。男性は1人で生活を支えながら子育てする徳田容疑者の苦労をおもんぱかったという。
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同町をエリアとする山手北光町内会の高橋雅子副会長は昨年春、町内会主催の学習会に誘うため、徳田容疑者宅を訪ねた。玄関に出てきた小学生の女の子に気になる点はなかった。ただ、玄関ドアから見えた散らかった室内に、わずかな違和感を覚えた。徳田容疑者には会えず、子どもが学習会に来ることもなかった。
高橋副会長はこの時、遺体で見つかった子どもとみられる幼い男の子にも会っていた。丸々として、元気そうなその姿を思い出すたび、「あの時、もっと注意を払い、何度も通って関わりを持っていれば、事態は変わったかもしれない」と悔やむ。
同町内会は事件を教訓に、町内会に加入しているかどうかにかかわらず、地域で暮らすすべての子どもを子ども会行事に誘うことを決めた。結城正敏会長は「町内会もできることを尽くすしかない」と話す。
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市が現在開会中の市議会に提案している「市子どもを虐待から守る条例」では虐待の対応や予防について市や市民の責務を明記している。さらに、通告を受けた調査で虐待が認められなかった場合でも、「良好な家庭環境で生活できるよう必要な支援を行う」ことを市に義務付けた。
条文案の作成を手掛けた市子ども・子育て審議会の部会員で、藤女子大学保育学科・子ども教育学科(石狩キャンパス)の小山和利教授は「通告は、密告や告発ではなく、支援を必要としている子どもや家族へ手を差し伸べるための戸を開く行為である―という思いを条文案に込めた」と話す。
条例案では見守り活動を通じて、家庭環境が地域社会から孤立することのないよう努めることを市民の責務とした。徳田容疑者宅を訪れる人はいた。生活の様子を心配する人も、何度も市に相談を持ち掛けた人もいた。しかし、「必要な支援」には至らなかった。
虐待を防ぎ、すべての子どもが良好な家庭環境で生活できる社会を―。同審議会部会長で、市民生委員児童委員協議会の松村順子会長は「二度とこのような悲しい事件が起こらないよう、市民一人ひとりにこの条例の重みを受け止めてほしい」と力を込めた。
条例は来週にも成立する。
※(この企画は姉歯百合子、小笠原皓大が担当しました)