●2● 劇団カウ代表 鈴木 英之さん(50)戦争の悲劇 演劇で伝える 真実考える契機に

  • 特集, 語り継ぐ人 戦後80年
  • 2025年1月28日
戦争の惨禍を伝える手段として演劇の可能性を語る鈴木代表

  劇団員や俳優、タレントを養成する専門学校の演劇講師を経て、2012年に苫小牧市に移住した。

   演劇漬けの日々から離れ、人生を見詰め直すつもりでいたが3年後の15年、知人の誘いで苫小牧空襲の史実を題材にした創作劇「ラスムッセン~樽前を生き抜いた男~」に出演。主人公のラスムッセンを演じた。

   1945年7月、苫小牧空襲に加わった米軍艦載機が樽前山に墜落。一命を取り留めた搭乗員ラスムッセンが山麓の厳しい環境の中で生き抜く姿を描いた。ブランクを感じさせない迫真の演技が評判を呼び、活動再開のきっかけになったが当時、観客の多くが苫小牧で空襲があった事実を知らなかったことに驚いた。潜伏生活の葛藤や生への渇望を表現する中で、「戦争を知らない世代に歴史を伝える大切さを実感した」と振り返る。

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   千葉県市川市出身。小学生の頃からの夢だった画家を目指し、道内の美術系大学に進学。表現者として総合芸術を学ぶため演劇部に入ると、絵よりも舞台芸術にのめり込んでいった。戦争の歴史について特に深く強く印象に残っているのは玉音放送を聴き、うなだれる人たちを捉えた小学校の教科書の写真。「国民すべてが本当に同じ気持ちだったのだろうか?」と素朴な疑問を抱いた。

   父方の祖父は陸軍参謀部少佐で職業軍人。戦死者が続出した東南アジアで、司令官を務めた。終戦後は公職追放され、古里の静岡県三島市でたばこ屋を営んだ。

   小3の夏休みに遊びに行った父の実家で、軍服を着た祖父の写真や勲章、表彰状を眺めていた時、父から「幹部(祖父)はかなり前に敗戦を知っていた」と聞き、がくぜんとした。この頃から「(国民に)与えられる情報すべてが正しいとは限らず、自ら事実を認識、判断して行動しなくては」と真剣に考えるようになった。

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   1200人を超える死者が出た和歌山大空襲、農村から中国の戦地へ送り出された馬と少年の物語…。苫小牧での演劇活動では、戦争を題材にした作品が少なくない。オリジナル脚本で中東情勢も伝えてきた。

   史実に基づく演技は見る者に強烈な印象を残す。「平和への願いを新たにした」と感想を述べる観客が多く、戦争の愚かさや「真実は何か」を考える機会を提供できたと確信している。

   ウクライナやイスラエルなど他国で今もなお殺りくが繰り返されている現状に恐怖を感じる。「実態をきちんと伝えられれば、誰も戦争を起こそうなんて思わないはず」

   戦後80年を迎える今夏、原爆や空襲をテーマにした朗読劇の上演を検討中で「構想の段階だが、演劇人としては創作劇も必ず行わなければと考えている」と力を込めた。

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