天上

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  • 2024年11月25日
天上

  谷川俊太郎さんの訃報でふと思い出したのはよく知られる「二十億光年の孤独」よりも「愛」だった。若い頃、別の詩人の現代詩を探していて偶然、茨木のり子著「詩のこころを読む」(岩波ジュニア新書)を手に取り、「愛」に出合った。著者の解説の助けがあって谷川さんの言葉が放つ豊かな光彩と深さ、美しさと広がりに触れることができた。何年かごとに読み返すたび、常に気付きがある。

   60代のコラム子にはそうと知らず幼い頃から谷川さんの言葉が身近にあった。「鉄腕アトム」は欠かさず見たし、幼なじみと海や川や沼に行くのに自転車を連ねた時は、乗りに乗って歌を口ずさんだ。今だって歌える。染み付いている。

   辞書に頼らねば分からない言葉が多用されたり、抽象的な世界が描かれた難しい詩は苦手だ。理解や想像が及ばない。詩誌「櫂」で活躍したこの2人や、茨木さんの盟友、石垣りんさんらには平易な言葉の使い方、選び方で学びの刺激を受ける。迷ったり、弱ったり、苦しかったりした時は揺さぶられたくて、叱咤(しった)してほしくて彼らの言葉を探す。

   谷川さんと音楽、詩で交流した人が苫小牧、旧穂別町にいた。転生までつかの間、天上で歌ったり、朗読したり、親しく語り合っているかもしれない。(司)

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