先日、患者さまから「糖尿病があると血圧も上がりやすいのかな?」という質問をいただきました。
結論から言えば、報告によって程度の差はありますが糖尿病の方は、そうでない方に比べて数倍高血圧の方が多いとされています。
糖尿病の方が高血圧を発症する仕組みとして、インスリン抵抗性といわれる病態があります。簡単に言うと、運動不足や肥満で上がってしまった血糖を下げるため、体がたくさんインスリンを出さなければならない状態です。インスリンが多いと腎臓で塩分が排せつされにくくなります(厳密には塩分の再吸収が増えます)。塩分には水を保とうとする作用があるため、血管の中を循環する水分量が増えて血圧が高くなります(体液貯留型)。
また、インスリンが多いと交感神経を緊張させるため、血管が縮こまることで血圧が高くなります(血管収縮型)。他にも原因となるさまざまな仕組みがあるのですが、両者が合併しやすくなる大きな理由はこれです。
このような状態が長く続くと徐々に血管の壁が厚くなります(動脈硬化)。動脈硬化が進むと血管の中の抵抗が増えて血圧が上がりやすくなります。自動車のエコタイヤは道路との余分な抵抗を減らすことで燃費を抑えていますが、同じように血管の中も抵抗が少ない方が血圧は抑えられるのです。
動物を狩ったり農産物を求めてさまよったりしていた太古の昔には、飢餓状態の時間の方が圧倒的に長かったため、血糖や血圧が下がり過ぎてしまわないように体は進化してきました。
血糖が正常レベルよりも下がると思考力が低下し、ひどくなると意識を失います。血圧も下がり過ぎると意識を失います。何よりもその状態が長く続くと命に関わります。そのため血糖や血圧を上げる働きがあるホルモンの方が体には多く備わっています。血糖に関しては血糖を下げるホルモンはインスリンだけです。
現代の日本では、一般的には定期的に食事を摂取し間食も可能で飢餓とは程遠い栄養過多な状態です。その上オートメーション化が進み、体力をあまり使わなくても生活ができるようになりました。まさに未曽有の時代で昔の人が夢見たユートピアだとも言えるかもしれませんが、何万年もかけて飢餓に備えて進化した体と現代の生活が合わないことが皮肉にも病気の原因になってしまっています。