女子は赤、男子は黒。小学生の時、ランドセルの色はそれしかなかった。たった1人、女子で黒いランドセルを背負っていたヨウコちゃんは、いつも周りからののしられたり、からかわれたりしていた。性自認がどうだったかは分からない。ただ、ヨウコちゃんは黒いランドセルを使いたかったのだ。その選択さえ容易ではなかった時代から半世紀以上がたち、同性婚を認めない現行の民法と戸籍法は、法の下の平等を定めた憲法に違反するとの判決が東京高裁で出された。
「女の気持ち」という読者投稿欄が毎日新聞にある。ちょうど70年前、家父長制の意識が根強く残る昭和の時代に、女性が心の内をつづる場として始まった。平成になり、1995年から「男の気持ち」が追加された。さらに令和の今年10月、「わたしの気持ち」が登場した。
同紙は「近年、性別を明らかにしたり強調したりすることへの疑問が寄せられるようになった」と説明し、「女」「男」「わたし」からタイトルを選んで投稿する規定に変えたという。10月1日に初めて掲載された「わたしの気持ち」は80歳女性からの投稿。「思わず『待ってました!』と声を上げた」と書かれていた。あの時、聞けなかったヨウコちゃんの気持ちを知りたいと思った。(吉)