大丈夫

  • ニュース, 夕刊時評
  • 2024年7月3日
大丈夫

  死者は、別れを悲しみ続ける者の夢にどんな頻度で現れて笑顔を見せ、声を聞かせてくれるのだろう。近くのお母さんの体験は、少し寂しい。病気で急死した娘さんと夢で会えたのは、死後7年がたったのに「まだ1回だけ」だという。

   家族とも、友人や知人とも、必ず別れる日が来る。老いや病気、事故。理由はいろいろ。突然襲い掛かり、大切な人が逃げ場も与えられずに一瞬で旅立っていく地震や津波も恐ろしい。元日の能登半島地震から半年が過ぎた。犠牲者は災害関連死を合わせて299人。平成以降の地震としては熊本地震を上回り、東日本大震災、阪神・淡路大震災に次ぐ死者数になった。復旧は思うようには進んでいない。特に倒壊家屋の公費解体は申請を受け付けた約2万棟のうち、1万8千棟以上が未着手のままだという。命を奪った家屋やがれきが、悪夢のような揺れの直後のままの姿で隣家を押しつぶし、道をふさいでいる。石川県の人口推計によると被害の大きかった輪島市など6市町の1~6月の人口流出は昨年同期の4・6倍、3029人。復興の大障壁だ。

   1回だけ夢に現れた娘さんが夢の中で言った優しい一言を母は忘れない。「大丈夫だよ」。能登地震の犠牲者は今、家族にどう話し掛けているのだろう。(水)

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