自民党は過去に2度、下野している。リクルート事件や東京佐川急便事件で国民の政治不信が高まった1993年、非自民の細川連立政権が誕生した。そして政治とカネの問題が政界を揺るがした2009年、民主党へ政権交代した。
今年6月に札幌で開いた自民党道連定期大会の講演で、2度の「逆風選挙」を体験している渡海紀三朗政調会長は、こう語り掛けた。「街頭でヤジが飛ぶのはまだいい方だ。演説しても無視され、素通りされる」―。「安倍1強時代」の追い風の選挙しか経験していない、衆院当選4回以下の国会議員たちを戒めた。
派閥の裏金問題で国民の信頼が大きく崩れ、支持率が低迷した岸田政権。首相の退陣表明で、自民党総裁選が事実上、始まっている。既に3人が出馬表明しているほか、9人が準備を進める。派閥解消で羅針盤も経験則も消え、史上最多の乱立の「夏の陣」となる見通しだ。
竹下、宇野政権が相次いで倒れた際、総裁を要請された政治改革の大家、伊東正義元外相は「選挙に通るために『表紙』だけ替えても駄目だ」と叱責した。表紙だけ替える疑似政権交代で支持を取り戻せるか。解散・総選挙も現実味を増す中、党員以外の無党派層も政治とカネの問題に対する本気度を見詰めている。(広)