鹿毛正三は、画作のみならず、随筆集『絵かきつれづれ』(1977年)、『随筆 北の風景』(83年)を出版するなど秀逸なエッセーの書き手でもありました。文筆家としてのセンスは、自身で名付けた二つのアトリエ、“薔薇絵亭”と“暮居時亭”の名称にも表れています。
鹿毛は、“薔薇絵亭”の玄関に当時紅白のつるバラが咲くアーチ型の鉄柱があったこと、樽前山荘のアトリエ“暮居時亭”は、夕刻に訪れていたことにその名が由来すると語っていますが、「バラエティ」や「クレージー」の言葉の響きに画家のユーモアも感じられます。
アトリエ・薔薇絵亭の棚には、カンバスのままの作品が大量に収められていました。その中にはサインのない描きかけのものもありますが、いずれも力強く、見応えあるものです。また、アトリエに保管されているイーゼル、パレット、絵筆などの道具類、若い頃に描いたもので大切に保管されていた自作の絵画、スケッチや原稿などには、今なお画家の面影が感じられるようです。
(苫小牧市美術博物館主任学芸員 立石絵梨子)