皆さんは赤と青のどちらがお好みですか? 私は実に38年も前からずーっと青が好みで・し・た。過去形なのはこの一年で嗜好(しこう)がすっかり変わったから。というより、ご無沙汰していた赤の、笑顔あふれる身のこなしに触れ、心の奥底で何となく青に抱いていた不満が一気にあふれ出たといったところでしょうか。
赤と青は同じ生業ながら出自がそもそも違います。国の威信を背負って世界を股にかける赤の背中を、青は国内に張り付きながらひたむきに追い続ける存在でした。海外に出る機会もなかった青は英語も下手くそ。でも、挑戦者としてすがすがしさだけはいつも赤に勝っていたように思います。挑む側の魅力でした。
そんな最中に世界をリーマンショックが襲いました。赤にはいまだ癒えない深い古傷がありました。脆弱(ぜいじゃく)な体を直撃された赤はみるみるうちに死に体となり、この間隙(かんげき)を縫って青は一気に赤を抜き去ったのです。
その後の展開はオセロゲームを見るようでした。国を背負う役割は青へと移り、時の政権と結び付いて、なりふり構わず海外への膨張を続けたのでした。その頃からでしょうか。青の態度がいんぎんにして無礼になり始めたのは。一方、どん底をはいつくばうことになった赤には利他の荒神が降臨。プライドをへし折られ、血を入れ替え、哲学を入れ替え、身を削りながら、再生への道のりを歩み始めることになりました。
以下は、札幌の、とある学校の修学旅行で実際に起きた”珍事”。3年生の4クラスは青と赤の別の便に分乗し、ほぼ同じ時間に仙台に降り立つ計画を立てていました。ところが何の予告もなく青が欠航を決め、学校は大混乱に陥ったのです。コロナ禍で採算の悪い便が切り捨てられたのか、真相はよく分かりません。
結局、キャンセルに遭った生徒を時間帯のまったく異なる赤の別便が救ったものの、行程は全面的に変更、同じ学校の生徒が旅先で満足に顔も合わせられない事態です。もっといただけないのはそのあと。一度キャンセルになったはずの青の振替便が搭乗当日に復活し、別の客を乗せて仙台に飛び立ったのを多くの生徒たちが目撃していたというのです。
経営者として他山の石としたいこのエピソードを羽田行きの機内で書いています。赤か青かって? それは秘密。ただ、ダ・ビンチの回転翼をあしらった金色の「ミリオンマイラー」のタグだけは定位置のまま。
(會澤高圧コンクリート社長)