谷内六郎展 壁画設置50年記念 (上) 春の音色が聞こえてくる壁画

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  • 2022年10月25日

  苫小牧市美術博物館は11月6日まで、特別展「壁画〈芽の出る音〉設置50年記念 谷内六郎展」を開催している。画家谷内六郎の存在が広く知られるきっかけになった「週刊新潮」の表紙原画50点のほか、来苫した際に描いた絵など約60点を展示中。担当学芸員が3回にわたって作品の特徴などを解説する。

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   苫小牧には子どもたちの明るい未来を願って制作された、壁画〈芽の出る音〉があります。「週刊新潮」の表紙絵で知られる画家・谷内六郎(1921~81)が原画を手掛けたその壁画は、1972年に苫小牧市科学センターが開館する際に寄贈され、長年親しまれてきました。

   改めて作品を見てみましょう。写真中央右側には輪になって遊ぶ北国の子どもたち。その輪の中に入ろうと駆け寄る少年と少女。所々に雪解けが始まっていますが、大地はまだ雪に覆われ、空を突き刺すような針葉樹と枯木には肌寒い風を感じます。よく見ると、木々にはチェロやコントラバスの姿があり、冷たい風の音は弦楽器の音色と交差するようです。雪深い地面に目を向けると、新しい芽が「ポンッ」とはじけています。

   次第にあちこちからはじけ始めた新芽は、雪解けの合図を鳴らし、砂浜の鍵盤に打ち寄せる波もまた春の訪れを奏でるようです。谷内六郎は、北国の春先に芽吹く様子を「力強い雪溶けのシンホニー」と表現しますが、まさしく音楽が聴こえてくるような作品です。

   写真で見ると、モチーフを一見して確認できるかもしれませんが、壁画は縦5メートル、横14メートルの大作で、視線を大きく動かしながら見ていかなければなりません。目線を変えるたびに次々と現れる音のモチーフに、次はどんな春の音色が聴けるのだろうと思わず夢中になってしまいます。ふと作中の空を見上げるとまだ雪が積もり、大きく裾野を広げた泰然とした山の姿があります。その特徴的な形の頂に、遊ぶ子どもたちと春の訪れを見守るその山が、樽前山であることに気付くことでしょう。

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   午前9時半~午後5時(最終入場は午後4時半)。観覧料は一般600円、高大生400円、中学生以下無料。月曜休館。

   (苫小牧市美術博物館学芸員 立石絵梨子)

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