子馬が牧場駆ける季節(1) ゴールデンバローズ ”逆転の馬生” 4年ぶりに種牡馬復帰

  • エンジョイ競馬, 特集
  • 2024年5月10日
新冠町の白馬牧場で種牡馬として繋養(けいよう)されているゴールデンバローズ
新冠町の白馬牧場で種牡馬として繋養(けいよう)されているゴールデンバローズ
大滝貴由樹
大滝貴由樹

  新年度が始まり1カ月余りが過ぎた。真新しいランドセルを背負った小学1年生の登下校姿はいつ見てもほほ笑ましい。胆振、日高の春のもう一つの恒例の光景といえば、生まれて間もない子馬たちが牧場を駆ける姿だろう。春はサラブレッドの出産シーズンで、同時に来春の誕生に向けた交配(種付けと呼ばれる)シーズンでもある。馬運車の往来を目にする機会が最も多いのがこの時期で、種牡馬との交配に向かう牝馬と子馬を運んでいる。

   競走馬の生産とはどんな世界なのか? 数字で紹介したい。血統や馬名登録、各種データを調査、管理するジャパン・スタッドブック・インターナショナルがまとめた2023年数値では、交配を行った種牡馬が270頭で、牝馬が1万651頭。種牡馬1頭平均39・1頭と交配した計算になる。馬の世界は”一夫多妻”で、人気種牡馬には100頭超の交配相手が集まる。今春、馬産地での一番の注目は、JRAで天皇賞(秋)2連覇、有馬記念、ジャパンカップ、宝塚記念のG15勝に加え、UAEのG1ドバイシーマクラシックを勝ち世界ランキング1位になって種牡馬入りしたイクイノックス。1回の種付け料が2000万円で、それでも申し込みは満口になった。昨年は同馬の父キタサンブラックが全種牡馬で最多となる242頭と交配し、こちらも今年は1回の種付け料が2000万円に上がった。

   前述した39・1頭はあくまで机上の計算で、一方で交配数が1桁の馬は113頭に上る。牧場の若駒の姿とは違う、優勝劣敗の厳しい世界だ。

   そんな中、4年ぶりに種牡馬に復帰した馬がいる。ゴールデンバローズ(牡12歳)。米国生まれの同馬はJRAと地方競馬で26戦6勝の成績を挙げ引退後に種牡馬入り。20年に18頭と交配しその1年限りで種牡馬登録を抹消されていた。翌21年生まれで血統登録された9頭の中から、地方岩手競馬に所属するフジユージーンが無敗の進撃を見せ、5月5日の重賞ダイヤモンドカップで7連勝、うち重賞5連勝とした。2着に続いたホッカイドウ競馬のオオイチョウも同産駒だった。数少ない産駒から活躍馬が出て、父ゴールデンバローズの種牡馬復帰を望む声が上がり、新冠町で再スタートを切った。4月を終え50頭を超える交配牝馬が集まる人気ぶりだ。

   今年の交配によって生まれる子供たちのデビューは早くて3年後の27年で、結果は誰にも分からない。ただ、こんな”逆転の馬生”を目にできるのも、競馬の楽しさの一つだろう。

  (フリーライター・大滝貴由樹)

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   「エンジョイ競馬」では、日本最大の馬産地である胆振、日高発の話題を中心にした競馬の楽しい話を、毎月第2、第4金曜日にお届けします。

  大滝貴由樹 プロフィル

   ◆大滝貴由樹 1966年、新ひだか町生まれ。日刊スポーツ(北海道)に33年勤務し中央競馬札幌・函館、ホッカイドウ競馬、ばんえい、馬産地など競馬全般の取材を担当する。2023年4月よりフリーランスで活動し、現在は競馬情報誌「馬事通信」の契約ライターのほか、北海道新聞で中央競馬予想を担当している。北海道競馬記者クラブ会友。

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