コロナ禍の”規制”が世の中からほぼ姿を消したことで、2020年1月のマニラ以来途絶えていた海外出張を本格的に再開した。リモート会議は便利だが、互いの波動が伝わらない。
今月の最終週からは複数の共同研究開発を進めているMIT(マサチューセッツ工科大学)のあるボストン、触媒技術の提携先があるヒューストンを訪問した後、ボストンに戻り、フランクフルト経由でサウジアラビアのリヤドに入る。サウジでは合弁のパートナーとの打ち合わせ、建設中の工場を視察した後、ドーハ経由で羽田に帰還。地球一周を超す強行軍だ。
これらのフライトの予約をしていて驚いたことがある。ボストンからリヤドに飛ぶ便はドイツのルフトハンザ航空を使う。スマホで手続きを進め、最後に決済となったときに、突然「よりサステナブルなフライトに」という画面が登場、なんと追加の料金を支払えば”カーボンオフセット”ができますよ、という触れ込みだ。
ジェット機は大量の二酸化炭素(CO2)を排出しながら飛ぶ。今予約のフライトで出すCO2排出量は何キロで、1人当たりに割り返すとあなたの分はこれだけ。これを相殺するオプションは三つある。(1)SAFと呼ばれるグリーン燃料で直ちに相殺する、(2)長期的な観点でCO2排出量を減らす気候変動プロジェクトへの支援で相殺する、(3)あるいは二つの組み合わせだという。料金は確か40ユーロ台後半だったはず。結局、この金額の根拠データが見当たらなかったため今回は選択を見送ったが、炭素の削減コストを利用者に堂々とつけ回す試み!「時代はついにここまで来たか―」とルフトハンザの英断にしばし感慨にふけった。
脱炭素への行動を経営の中心に据えない企業に、あすはない。炭素は自社で排出する分だけでなく、仕入れ資材の生産で発生する分や、出張や通勤時に出る間接的なものまで捕捉して管理するScope(スコープ)3の時代。だから出張時の排出量をオフセットするための選択肢を乗客に示すという行動には、合理性があるのだ。
アプローチはやや異なるが、当社もルフトハンザに負けていない(はず)。炭素(の一部)を即座に除去できる炭素除去コンクリートや長期的な観点で炭素を減らせる自己治癒コンクリートを全国規模で普及させるとともに、炭素削減量の精密な根拠データを物件ごとにブロックチェーンに格納(NFT化)して、ウォレットで取引先にお届けするという建設のための「脱炭素経営プラットフォーム」を開発。50社を超える同業の仲間から協賛をもらいながら、幕張メッセ(千葉市)で開催中の「脱炭素経営EXPO」に大型ブースを出展した。
今は14日の朝。残りの2日間、全国から集まった多くの仲間たちとブースに立って汗をかく。
(會澤高圧コンクリート社長)