あと3年

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年6月24日

  診療所の勤務が終わると、ときどき裏口から出て短い階段を駆け上がり、高齢者施設の敷地を通り抜ける。すると、もうそこは穂別博物館だ。所要時間は3分ほどだろうか。

   博物館は午後5時に閉館なので、展示は見られない。でも、小ぶりでシンプルだけど近代的な本館と小さな道路を挟んだところにある化石の収蔵庫を眺めているだけで、なんだか気持ちが落ち着く。この中に、穂別で発見された恐竜、カムイサウルス・ジャポニクス(むかわ竜)のほぼ全身の化石が眠っているのだ。

   地域医療をやってみたい、と思った私が穂別診療所を選んだ最大の理由が、このカムイサウルスだった。その前に、東京の国立科学博物館でこの恐竜の全身復元骨格と化石の実物を見て感動したからだ。

   ところが、”カムイサウルスの地元”である穂別の博物館は手狭で、全身の復元骨格や化石の展示はできない。尻尾がないままの復元骨格でもそれなりの迫力はあるが、全身を見たことがある私からはちょっと痛々しく感じられる。博物館にはリニューアル計画もあったが、胆振東部地震で保留となっていた。

   そんな博物館を巡って、大きな動きがあった。この5月、むかわ町が博物館の新館の建設を含めた周辺エリア再整備基本計画を発表したのだ。もちろん、新館にはカムイサウルスの全身の復元骨格や化石を展示するスペースも確保されている。

   オープンは2026年春になりそうとのことだから、あと3年弱。3年という時間は長そうに思えるが、意外にあっという間かもしれない。来年あたりから工事が始まれば、さらに時の流れは速まるだろう。

   夏至の日も、夜間診療が終わってから博物館エリアまで行ってみた。時計は午後7時を回っていたが、まだ辺りは明るかった。閉館後の博物館の周辺に人けはなく、裏山のねぐらに戻って来た鳥たちの声だけが響き渡っていた。私は、カムイサウルスに心の中で話し掛けた。

   「あと3年で新しい住まいができるよ。7200万年前から来たんだもの、あと3年待つなんてどうってことないよね」

   新博物館の完成まで、私も穂別診療所で頑張ろう。診察に来る町の人たちとも「楽しみだね」と語り合いながら、カムイサウルスと一緒にその日を待ちたいと思っている。

  (むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)

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