空飛ぶ生コンプリンター

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年6月17日

  私たちは今、エンジンで飛ぶ大型ドローンを開発している。150キロもの荷物を持ち上げ、何時間も飛び続けるために独自に設計したのは、大型バイクのDNAを持つ1000ccの純国産ドローン専用エンジン『國男』。時速300キロを軽々と超え、20世紀最速の市販バイクの伝説を生んだ『隼』のエンジンデザイナー、元スズキの荒瀬国男が私の共同事業パートナーだ。

   コンクリート屋が、世界一のエンジン屋と組み、なぜドローンなのか。速乾性のコンクリート材料をドローンに搭載し、特殊なノズルから吐出させ、空中で構造物を印刷する”空飛ぶ生コンプリンター”を開発普及させるためである。

   当社は産業用のロボットアームを使い、型枠を使わずに三次元の物体を積層造形する、いわゆるコンクリート3Dプリンター事業を日本でいち早く手掛けた。しかし、アームの届く範囲に印刷が限られる今の技術では太刀打ちできない課題がにわかに浮上している。近頃メディアでめっきり聞く機会が増えた浮体式洋上風力がそれだ。

   高さ120メートルに及ぶ1本10メガワット超級の鋼製タワーを大海原に浮かべて再生可能エネルギーを確保する浮体式。これを原発に代わるベースロード電源へと高めるには、タワーを洋上で支えながら半世紀の単位で海に浮かび続ける巨大な艦船が万の単位で必要だ。

   日本中の造船所のドライドックをかき集めてもまったく間に合わない。答えは鉄を切り貼りする造船の発想を捨てること。一般的な港湾のバースに接岸させた浮きドックの上で、巨大な浮体の型枠そのものを空飛ぶ生コンで24時間印刷し続けながら構造体コンクリートを打設する、海洋構造物の新たな大量供給モデルを確立するのである。

   政府は2050年までのカーボンニュートラルにコミットし、浮体式洋上風力の輝かしい未来をうたうものの、肝心な浮体をどう供給するかのアプローチが伴っていない。今月30日に迫った当社の新たな研究開発型生産施設「福島RDMセンター」(浪江町)の開業イベントでは、この浮体式をメインテーマとしたシンポジウムも開催する予定だ。

   人類が二度と経験してはならない福島の事故を乗り越え、本物のエネルギーチェンジをニッポンで起こすために、われわれコンクリート産業がもう一度前面に出て行くぞ!と勝手な使命感をみなぎらせている。テックフェスさながらのネットワーキグンイベント。リモート参加も可能なので、ぜひのぞいてみてください。

  (會澤高圧コンクリート社長)

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