東京に住む演劇仲間、川原田樹の地元は北海道の大曲(北広島市)。彼は毎年大曲に雪かきに帰り、大雪の動画を送ってきてくれる。東京では考えられない別世界である銀世界を、スマホの小さな画面で見るのが好きだ。
「札幌で生まれたんだけどさ、北広島市に越したんだよ」「北広島市?」「日ハムの球場があるよ、知らない?」「知らない」「広島の人が北海道に来て開拓したんだ、だから北広島市って名前なんだよ」「すごいね」「さやかさん北海道詳しくないね」
わたしは笑った。「だけどさ、わたしは北海道が好きだよ。いやー好きだね、北海道」。そう伝えると彼はうれしそうに、みんなが北海道っていいねって言ってくれるからさ鼻が高いよ、と言った。
確かに「地元はどこ?」と聞き、北海道出身となると「いいね!」とそれだけでテンションが上がる。自然、おいしいご飯、スイーツ、温泉。あゝ最高。北海道の地図上での形だって芸術的じゃないか。わたしは愛知県出身だ。言われることといえば「愛知って、何があるとこだっけ?」「日本地図のどこらへんにある?」「みゃあみゃあと方言、本当に言うの?」。愛知県に興味を持たずに生きてきた人の多さに驚き、若干寂しいのは確かだ。
「さやかさん!」。樹が話し掛けていた。「はいはい」「今はいい時期だよ、5月の北海道はさ」「うん」「桜がね、奇麗で。北海道の花見は、お肉屋さんが来て、こんろ置いてさ、満開の桜の下、ジンギスカンやるんだよ」「へー!」「懐かしいよ、円山公園」
こんなに北海道を愛していて、彼にとっての東京はどうなんだろうか。「都会で驚いたのは、自転車を止めるにもお金がかかること。それとさ、道に止めると撤去されてさ。え、自転車撤去されることあるの? って」「北海道は、ないの?」「自由だよ! どこに止めたって」「そんはことはないでしょう、大げさ!」
でもさ、と彼は続けた。東京の3月や4月の春の心地よさ、東京はいわゆる春の時期に春の風が吹いて好きだな。ふむふむと聞きながら、わたしは東京に出てきてよかったことと言えば樹みたいな友人に出会えたことかな、とうれしく思ったが、それは口に出さず、高層ビルがひしめき合う大都会の空を見上げた。
(タレント)