現代のコロッセオ

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年4月15日

  3月30日午後。私は最大の取引先であるクワザワの桑澤嘉英社長を隣に乗せ、その日、日本中の話題をさらうことになる北広島への道を急いでいた(本当に急いだのはハンドルを握る弊社の社員だが)。ブルーインパルスが上空で祝賀の編隊飛行を繰り広げるなか、一向に車列が進まぬことにハラハラしながら、ボールパークのグランドオープンを飾る開幕戦のイベント開始前に何とか滑り込んだ。

   着いてすぐ、ファイターズ前社長の川村浩二顧問から、日本ハムの社長兼球団オーナーに就任したばかりの井川伸久氏を紹介され、まずはごあいさつ。とにかく人でごったがえすなかで、ボールパーク建設の総指揮を執った矢野基さんの姿を見つけた。

   大阪発祥の大林組で初めて道産子の札幌支店長になった矢野さんには、特別な親近感を抱いていたのかもしれない。目が合って「おめでとうございます!!!」と口を突いて出た後、思わずハグしてしまった。「こんなにたくさんの人が集まってくれて、ほんと感無量だよ」と応じた矢野さんは、「次は東京なんだ」とぽつり。北海道に「世界一」を刻んだ男は、常務執行役員東京本店建築事業部長として、品川の東京本社にご栄転である。なんだか自分事のようにうれしかった。

   あらゆるスタジアムの原型は古代ローマ人が生み出した円形闘技場にある。市民にエンターテインメントを与えることが治世のカギと悟ったローマの皇帝も、さすがにコロッセオの中にカラカラ浴場をつくる発想は持たなかった。「現代のコロッセオ」ボールパークのレフトスタンドには5層の天然温泉、サウナ、ホテル棟が備わる。なるほど21世紀の北海道はローマ皇帝の発想をもしのいだ、といっていい。

   ボールパーク基礎部には、厳しい工期を乗り切るために弊社の工場で製作したプレキャスト部材が多数施工されている。組合を通じて納入された生コンの総量は実に16万8千立方メートル。お客さまである球団への支援、そして取引先や社員の家族への感謝を込めて毎年冠試合をやらせていただいているが、今年は”村神様”見たさに6月1日の対ヤクルト戦を選んだ。

   午後6時。WBCで日本を世界一に導いた栗山英樹監督が始球式に現れ、場内の歓喜は最高潮に達した。それを見ながら、今年は始球式のマウンドに立っちゃおー、と心に決めた。

  (會澤高圧コンクリート社長)

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