子宮で考える

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年4月8日

  2014年夏。バラエティー番組のロケで富良野へ。フジテレビのドラマ、倉本聰富良野3部作の最終章「風のガーデン」の撮影の地を訪れた。新富良野プリンスホテルの敷地内に、そこはあった。どこまでも続くグリーンの芝生。青い空。白い雲。なんと気持ちの良いことか。あの爽快感は今でも思い出すことができる。

   初めての富良野。わたしはとても興奮していた。なぜならば、富良野といえばドラマ「北の国から」。子供の頃から大好きであり、家族で見ていたわけであり、純と螢と共に歳を重ねてきたような気持ちであり、さだまさしさんの歌が流れてくると泣きそうになるわけであり、親に泣き顔を見られたくなくてぎゅっと手をつねって我慢したわけであり。

   富良野の地に足を踏み入れることも心躍るが、もう一つのスペシャルは倉本聰先生に会えること。

   一行は先生の待つSoh’ BAR(ソーズ・バー)へ。林道を抜け、ドアを開けると大人の煙草の匂いが漂う。重厚な石積みの床と壁。壁面には世界から集めた煙草のパッケージがディスプレーされている。倉本聰の書斎に来たかのようだ。

   そこへ倉本聰先生がいらした。黒縁の大きな眼鏡を掛け、黒いハイネックのインナーにベージュのシャツを着て。思わず背筋が伸びるわたしたち。先生がわたしを見て

   「美人だと思うねえ」

  と一言。

   「え、わたしですか!」「農村部に似合うね」「農村部、ですか」「爪の中なんか真っ黒って感じがして好きだね」「は、はあ、ありがとうございます」

   決して大げさにも、また冗談も言わないであろう倉本先生に褒められたわたしはうれしく、現場は笑いに包まれた。

   話は、倉本聰語録へ。「基本を無視する人間は何をやっても失敗する」「子宮で泣かせて睾丸(こうがん)で笑わせろ」。なんとなく、分かる。いや、せめて倉本先生の前では、理解している顔をしておきたい! 最後に先生は、こうおっしゃった。

   「首から上だけでやってるとね、間違えるよ」

   わたしは、この言葉を、よく思い出す。

   余裕がなくなると頭で考え始めることが増える。そんな時、よーし頭ではなくて、子宮で考えてみよう! と仕切り直し、空を見上げて、無性に倉本聰先生に会いにいきたくなる。

  (タレント)

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