気軽に全世界へ

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年2月25日

  少し前の話になるが、今年の年賀状はなかなかおもしろかった。むかわ町穂別で働き始めたことを知った人たちからの賀状に、「実家に帰ったんですね」というひとことが書き添えられていたのだ。

   私は札幌で生まれ、幼稚園に入る頃に家族と小樽に引っ越した。両親は他界したが、家はまだ小樽にある。穂別と小樽は150キロほど離れており、運転に慣れていない私にとっては、そこまで出掛けるのは”大冒険”だ。東京からなら、飛行機で新千歳空港に着けばJRで乗り換えなしに小樽まで行ける。計算してみると、穂別からでも東京からでも、小樽までの所要時間はさほど変わらない。「気分的には、東京にいたときの方が気軽に小樽に行けたなあ」と思うことすらある。

   だから、「北海道の診療所に? ああ、実家に帰ったんですね」と言われても、とても「そうなんですよ」とは返せない。とはいえ、「いえ、実家からはかえって遠ざかった感じです」と言っても、北海道の大きさを知らない人はきょとんとするに違いない。なんだかおもしろいな、と思った。

   先日、医療に関するある研修会で、オホーツク地方で働く医師と席が隣になった。つい「遠くて大変ですね」と言うと、「女満別空港まですぐなので、札幌にも東京にも行きやすいんですよ」と話してくれた。そうそう、これが”ザ・北海道スタイル”なのだ。そういえば穂別も新千歳空港まではそれほど遠くないので、「コロナ前までは毎月のように東京の歌舞伎座に出掛けていたの」などと話してくれる人もいる。

   もちろん、飛行機は運賃も安くないし、天候の影響も受けやすい。それにコロナ禍で移動を控えてきた人も多いだろう。ただ、LCC(格安航空会社)がもっと広まり、感染状況も落ち着いていけば、全道の空港から気軽に全国へ、海外へと出掛ける人たちもまた増えていくに違いない。

   「北海道の郊外にいる」と話して本州の人に「不便でしょう」と言われたら、にっこり笑って「まあね。でも週末は東京や福岡、ときどき韓国や台湾に出掛けて、連休はシンガポールに行く予定なの」と涼しい顔で答える。北海道にいるからこそ、いわゆるセレブでなくてもそんな生活も夢ではない。全国、全世界に気軽に出掛ける”ザ・北海道スタイル”を私も目指したい。

  (むかわ町国民健康保険穂別診療所副所長)

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