葉をすっかり落としたウトナイ湖の森を、身を切るような冷たい風が吹き抜けます。長時間屋外にいるのはつらいですが、落葉で見通しが利くようになったおかげで、森にすむ野鳥を見つけやすい季節です。ハシブトガラ、シジュウカラ、ゴジュウカラなどたくさんの野鳥が寒風に耐えながら生きている様子を観察できます。
冬はまだこれからが本番という時期ですが、冬至を過ぎ、日は少しずつ延びています。そして平年通りであれば、間もなくウトナイ湖に小さな春の兆しがやってきます。野鳥がさえずり始めるのです。さえずりとは、繁殖期である早春から夏に主に雄が縄張りを宣言したり、雌に求愛したりするために発する鳴き声です。ウグイスの「ホーホケキョ」というさえずりは聞いたことがある方が多いのではないでしょうか。ウトナイ湖では、昨冬1月17日にはハシブトガラ、同29日にはゴジュウカラのさえずりが確認されています。前者は「チョチョチョ…」と澄んだ声で、後者は「フィフィフィ…」と大きな声でさえずります。
寒い時期に聞こえてくる生命感あふれる鳥の鳴き声は、昔から人々の心を温めてきました。哲学者の串田孫一の「雪の森の一夜」という随想にその例を見ることができます。登山のために雪深い冬山でテント泊をした時のことです。底なしに冷え込んだ早朝、寒さに耐え、寝袋に包まる串田と仲間たちの耳に、コガラという小鳥の鳴き声が飛び込んできました。生命感に乏しい冬の森にみずみずしく響いたその声は串田の心を温め、もう一度聞きたいがために、誰も言葉を発さず、沈黙が続いたのです。
まだ寒さが続きます。外出するのがおっくうになりますが、あと数週間で雪景色の森で小さな春の歌が聞こえ始めるのです。山奥でテント泊をする必要はありません。ウトナイ湖の自然観察路は冬でも歩くことができますので、小さな春の兆しを探してみましょう。きっとあなたの心を温めてくれるはずです。
(日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ・松永新レンジャー)