穂別に来てよかったことの一つに、「職場で堂々と野球の話ができる」というのがある。
「野球の話」とはもちろん日本ハムファイターズの話題を指す。道内ではどこでも同じだと思うが、「きのう、野球見た?」は「ファイターズの試合の中継を見たか」という意味になる。ほかの地域でそう言ったら、「メジャーリーグのこと? それとも高校野球?」などと聞き返されるに違いない。「野球といえばファイターズ」、これが道内の常識なのだ。
今の診療所にも熱狂的ファイターズファンの看護師、保健師、事務職員などがいて、特に今シーズンは毎朝、「きのうの逆転、すごかったね」「涙が出ましたよ」などと盛り上がった。長期入院中の高齢者を励ます曲を演奏しよう、と、時々昼休みなどに有志でリコーダーの練習をしているのだが、私はそこでよく「ファイターズ讃歌」を吹いた。「なんですか、それ」と言う人はおらず、「私も吹きたい! 楽譜ありますか」と頼まれる。クライマックスシリーズの最中は白衣の下に球団のロゴが入ったブルーのTシャツを着用したが、患者さんからも大好評だった。
ほかの地域なら「職場でプロ野球の話ばかりしたり、応援歌を笛で吹いたりするのは不真面目だ」と言われかねないが、ここでは眉をひそめる人は誰もいない。それだけでもストレスを感じずに済み、心が解放され楽しい気持ちになる。
監督就任が決まった3年前のちょうど今ごろ、新庄監督はSNSなどでこう発信した。
「プロ野球の存在意義は、そこの街に住む人達の暮らしが少しだけ彩られたり、単調な生活を少しだけ豊かにする事に他なりません」
「少しだけ」という繰り返しはあのエンタメ性あふれる監督にややそぐわないが、一般の人たちにとってのプロ野球の役割はまさにそこにあるのだと思う。そしてファイターズは、ここ穂別でも立派にその役割を果たしているといえる。
さて、今年、大いに成長の跡を見せた若手選手たちは、来年どんな活躍を見せてくれるだろう。新庄監督、稲葉2軍監督、栗山チーフ・ベースボール・オフィサーはどんな”連携プレー”を見せてくれるのか。今からそれを楽しみにしながら、私も「医療を通じて、穂別の人たちの暮らしを少しだけ幸せにしたい」という夢を胸に抱いて頑張っていきたいと思う。
(むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)