ガンの「ねぐら立ち」「ねぐら入り」 一つの生命体のように湖上舞う

  • 救護室のカルテ, 特集
  • 2020年3月25日
ねぐら立ちを見詰める長男。ウトナイ湖にて

  雪解け、柔らかな日差し、心地よい風、春の便りに誘われて、今回は救護室を抜けて外でのお話です。

   この季節、ハクチョウやガンの仲間が、冬を越した本州から繁殖地である北はロシアの大地を目指して、長距離の渡りを行います。皆さまもどこか上空で、列をなして飛ぶ姿をご覧になったことがあるのではないでしょうか。

   私が勤務しているウトナイ湖野生鳥獣保護センターの目の前に広がるウトナイ湖は、周囲9キロと、決して大きな湖ではありませんが、多くの渡り鳥が旅の中継地として利用しています。特にこの時季はガンの仲間(マガンやヒシクイ)が湖をねぐらにしており、多い時では何万羽ものガンが羽を休めて夜を過ごします。彼らは朝を迎えると「ねぐら立ち」といって、大きな集団で一斉に飛び立ち、採餌のために近隣の田畑へ出かけ、夕方になるとまた湖に戻る「ねぐら入り」をします。これらは、この時期ならではの風物詩としてもよく知られています。

   3月半ばのある日、小学生の長男を連れて、ねぐら立ちを見にウトナイ湖を訪れました。日の出30分前、まだ辺りは暗く氷点下の外気温の中、湖に向かって観察路を歩くと、次第ににぎやかな鳴きが聞こえてきました。観察ポイントに到着すると、湖面には数え切れないほどのガンたち。それから間もなくのことでした。彼らはすさまじい羽音と共に一斉に飛び立ちました。個々のガンが重なり合い、まるで一つの生命体のように湖上を舞う姿は、まさに神秘的で圧巻そのもの。私も幾度となく、ねぐら立ちを見てきましたが、いつ見ても感動に値する光景です。

   彼らはしばらくの期間、この周辺で餌を食み栄養を蓄えながら過ごしますが、北の雪解けが進むと、また長い旅が始まります。そして無事に繁殖地にたどり着き、子育てが終わればまた、秋にこの地へ戻ってくるのです。そんな彼らの、壮大で素晴らしい命の営みの一場面を、こうして間近で目にすることができるありがたさを感じながら、この環境を、未来を担う子どもたちに託せるよう、私たちもまた懸命に守り続けなければならないのだと、胸に思う春のひとときでした。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)

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