支笏湖の水を利用した発電が明治時代から王子製紙によって千歳川で行われていることはよく知られていますが、50年以上前、北海道電力が支笏湖南側の社台台地(白老町)に揚水式水力発電所(揚水発電)を計画したことはあまり知られていません。
揚水発電は電力に余裕の生じる夜間などに湖などから高台の貯水池に水をくみ上げ、需要の大きい昼間に発電所に落水して行う水力発電です。
計画されたのは千歳市支寒内地区と隣接する社台台地。支笏トンネルがある多峰古峰山西側の通称・砥石山(614・2メートル)一帯で、貯水池3基(総貯水量523万トン)を設け、落差約300メートルの地下に出力毎時15万キロワットの発電機3基を設置。ため池以外の発電所や送排水管などは全てトンネルを掘り地下に設置、取水と排水は湖の中で行うというものです。
当時の北電の説明では、計画は苫東(苫小牧臨海工業地帯)を中心に千歳市域などに近い立地条件とその需要増に対応するのが狙い。揚水電力は、将来、建設が検討されている苫東の大型火力発電所や共和・泊地区の原子力発電所における夜間有休電力を活用するとしています。ボーリングなどの調査は1968(昭和43)年から始められました。
第1期の投資額だけで150億円程度と見積もられたこの計画に白老町は賛成。当初乗り気で調査に同意した千歳市は支笏湖の自然保護、特に湖水の汚濁によるヒメマスへの影響を考慮して、市議会(70年9月定例議会)で反対の意向を表明しました。
関係資料があまり公表されていないので、どのような経緯があったのかは不明ですが、その後計画は立ち消えとなりました。支笏湖の自然に大きな影響を与える計画だけに、地元だけではなく当時国立公園を所管していた厚生省(環境庁発足は71年)の同意が得られなかったのでしょう。
(支笏湖ビジターセンター自然解説員 先田次雄)