スイッチオンの役割も 身近な「シッチ」に目を向けて

  • レンジャー通信, 特集
  • 2020年11月6日
篠路福移湿原。同じ石狩低地帯の都市部に残るなど、勇払原野との共通点もある

  このシッチとは湿地のこと。文字通り湿った土地を意味し、湖や沼、河川、干潟、湿原、草原など、実にさまざまなタイプがあります。近年は防災の観点からその役割が期待される一方、開発の波にさらされ、減少の一途をたどっています。漢字で書くと、何となく「じめっ」とした印象ですが、カタカナだと、シャチにも似て、私にはなぜかクールに思えます。

   さて、少し前の10月24日と25日、万全な感染症対策のもと「シッチスイッチ」というイベントが札幌市で開催されました。案内パンフレットに「社会全体として湿地を守り育み、その恵みを将来にわたって享受できるようにSWITCH(転換)する。そんな『北海道における湿地の主流化』が(この)北海道湿地フォーラムの大きなテーマです」とあり、どんなスイッチが見つかるのか、そもそもスイッチとは何なのか、私自身、興味津々で参加しました。

   初日のエクスカーション(現地見学会)では、都市部に残る湿地を視察。石狩川の周辺にはかつて、釧路湿原の約3倍もの面積の石狩湿原が広がっていました。向かったのは、その名残をとどめる篠路福移湿原(札幌市北区)です。ここは、小さなカラカネイトトンボが市内で唯一生息する場所。想像よりもはるかに狭く、まさに辛うじて生き残っているというシッチでした。この30年間で面積は4分の1に減少し、現在、約5ヘクタールだそうです。埋め立てにより、植生は顕著に変化しているとのことで、NPO法人がトラストによる土地の購入を進めています。

   続くセッションでは、湿地の自然と生きもの、湿地と人・社会をテーマに、それぞれ4名の方から話題提供がありました。上流部で起きた農地崩落と土砂流入による下流部での漁業被害をきっかけに設立された「網走川流域の会」。会長さんは、流域の連携が重要であり、人と産業と自然の共生が環境保全、その先の湿地再生につながると語っていらっしゃいました。どの方のお話も、湿地にすむ生きものや危機などについて、示唆に富むものでした。

   振り返り改めて考えるのは、私たちが保全活動を進める勇払原野のことです。市街地に近く、工業地帯の中に残る湿地。そもそもどこにあるのか、どんな野鳥が生息しているのか、まだまだ知られていないと感じます。勇払原野という身近なシッチの存在に気付いていない、皆さんのココロのスイッチをオンにすること、私たちレンジャーの役割はこんなところにあるのかも、と思いました。

  (日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリ 中村聡レンジャー)

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