第58回夏休み読書感想文コンクール (2) 小学校中学年の部・最優秀賞 守ることとチャレンジと 苫小牧拓勇小4年 中 (なか)拓生(たくお)君

  • 夏休み読書感想文コンクール, 特集
  • 2023年11月8日
第58回夏休み読書感想文コンクール (2) 小学校中学年の部・最優秀賞 守ることとチャレンジと 苫小牧拓勇小4年 中 (なか)拓生(たくお)君

  ぼくはジュンがかわいそうだと思った。興味がないみそのことを、お父さんにしつこく言われているからだ。お父さんがみそのことを話しても、ほとんど聞き流している。右から左だ。興味のない話を聞き流してしまう気持ちはよく分かる。ぼくも動物や植物の話になると、聞き流してしまいがちだ。ほとんど頭に入ってこない。

   ぼくは歯医者に生まれた子だけれど、歯のことに特別興味があるわけではない。窓からちらっとのぞいたことはあるけれど、ずっと見ているわけでもない。父からしつこく歯医者のことを言われたこともない。保育園のころ先生方に「歯医者の子に生まれたのだから、歯医者になるんでしょう?」と言われていたけれど、大して気にしたこともなかった。そのころは、将来のことについて考えたこともなかった。大人になればどうにかなるんだろう、と考えていた。でも今は、歯医者にはなりたくないとはっきりと思う。

   昔は武士の子に生まれたら武士、農民の子に生まれたら農民だった。特に農民は刀も取り上げられて土地しかなかったから、ずっと農民であるしかなかった。でも、今は令和の時代だ。「みそ屋の子に生まれたからみそ屋」というのは時代遅れではないだろうか。「継ぎたくないなら継がなくてもいい」とお父さんやおじいちゃんが言ってあげたら、ジュンも気が楽になるのにと思う。

   ぼくの父は長男だけれど、二代続いた鉄工所を継がなかった。医療の仕事をしたかったからだ。それについて祖父は何も言わず、祖母は「継ぎたくないなら継がなくてもいい」と言ったそうだ。しかも、名前にも長男を表す一ではなく、三男を表す三の漢字を入れて「継がなくてもいい」という意味をこめてくれたそうだ。継がなかったことに後ろめたさはないという。でも、祖父はさびしさを感じていたのかもしれない。ぼくが歯医者を継がなかったら、父は何も言わないけれどさびしさを感じるのだろうか。

   ジュンのおじいちゃんは、「ここまで続いたうちならではの味と香りをなくしたくない」と言う。ジュンにとって重すぎる言葉だ。小樽に旅行に行った時に酒蔵を見てきた。黒光りする立派な酒蔵だった。まるでジュンの家のみそ蔵のようだった。この酒屋に生まれて、継げ継げ言われたら根負けして渋々継いでしまうのだろうかと思った。酒蔵を壊すことはできない。何代にも渡って受け継がれてきたものだから、先人に対して申し訳ない気持ちになる。だからと言って継ぐのも嫌だ。ちがう人に継いでもらって、血筋が変わるのも嫌だ。守るべき伝統と文化。ジュンの気持ちがちょっとだけ分かった気がした。

   ぼくの名前には、自分の道を自分で切り拓いて欲しいという願いがこめられている。続いてきた伝統と文化を守ることはとても大切なことだけれど、新しいことにチャレンジすることも大切にして生きていきたい。

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