底力の見せどころ

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年10月28日

  今年も”そのとき”がやって来た。宿舎の外のデジタル寒暖計が「0」と表示されるときだ。これから穂別は「零下の冬」を迎えるのだ。

   沖縄の知人に「0」の写真を送ると、「こっちはいま25℃だよ」という返信が来た。日本ってけっこう広いんだな、と気付かされる。

   診察室でも、患者さんたちと「寒くなってきましたね」「いよいよですね」と冬の到来について話すことが多くなった。おもしろいのは、「本当にイヤです」「気が重い」と話す人より、「今年も除雪、頑張りますよ」「まきは十分、準備してあるので」などとファイトを燃やしている人が多いように思うことだ。「夏の間に塩蔵していた野菜を少しずつ洗って、かす漬けにするのよ。とってもおいしいの」と笑顔で冬の楽しみを話してくれる人もいる。「冬こそ自分の底力の見せどころ」という感じなのかもしれない。

   東京にいたときはどうだっただろう。中には「スキーができる冬は大好き」という人もいたが、多くは「寒くて気もめいる。家に閉じこもりがちになる」「風邪を引きやすい体質だから、これから春まで憂うつ」と”冬は悪者”と捉えていたのではないか。私自身も、「厚いコートを着るのは面倒くさいな」とため息をつきながら冬を過ごしていた気がする。

   この季節、本州の友人からは「もうかなり寒いんでしょうね。大変ですね」などと同情のメールが届く。それには「ありがとう。頑張らなくちゃね」とお礼の返事を出すが、心の中ではちょっと別のことを考える。

   「あなたたちに言っても分からないと思うけど、冬を前に穂別の人たちは”さあ、やるぞ”と元気になってるよ。私もその人たちに負けないように、しっかり冬の備えをして、元気にこれからの時期を楽しんでいくつもり」

   手始めにタイヤを冬用に交換した。暖房の点検も済ませた。いつ雪が降ってきてもいいように、帽子やダウンジャケット、滑り止めの付いた靴も出してある。診療所の仕事が終わると、もうすっかり暗くなっている。宿舎に戻り、患者さんから頂いたカボチャを甘く煮て、ホクホクの食べ応えを楽しみながら、窓から暗い外に向かってひとりつぶやく。

   「さあ、冬が来るならいつでも来ていいよ」

   冬こそ底力の見せどころ。私もけっこう”穂別の人”になってきたようだ。

  (むかわ町国保穂別診療所副所長、北洋大学客員教授)

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