天からの手紙

  • 土曜の窓, 特集
  • 2023年10月7日

  北海道大学の総合博物館の近くに「人工雪誕生の地」という石碑があります。これは、1935(昭和10)年に中谷宇吉郎教授が初めて雪の結晶を人工的に作ったことを記念したものです。中谷は「雪は天から送られた手紙である」という有名な言葉を残した物理学者であり、随筆家です。

   私は明治・大正の文豪の生活に興味があり、夏目漱石↓寺田寅彦という経路で中谷にたどり着きました。中谷の師である寺田は物理学者でありながら、夏目漱石に師事して随筆、小説、俳句などで活躍しました。「天災は忘れた頃にやってくる」という名言を残したのも寺田です。中谷は寺田を慕い、同じような道を歩んだことになります。

   航空機の冬季運航にとって、雪は大きな影響を与えますが、北海道を拠点とするAIRDOは特にそうです。雪への対策は、「滑走路等の除雪」と「機体の除雪」の二つが要となります。航空機は、自動車のように冬タイヤがありませんので、降雪時もいつものタイヤで安全に着陸する必要があります。

   新千歳空港では、朝早くから夜遅くまで多数の除雪車両が常駐し、タイミングを見計らって隊列を組んで素早く除雪を行います。その後、凍結防止剤を散布し、積雪や圧雪の状況、雪質、パイロットからのレポートなどを基に、滑走路等の情報を航空会社に提供しています。

   また、航空機の翼に雪が積もったり、霜が付着したりすると、翼の上がザラザラになり、揚力が減少すると言われています。そのため、降雪時は出発前に「防除雪氷作業」を行います。まず、お湯と除雪氷液を混ぜたもので雪や霜を除去し、必要があれば粘性のある防雪氷液を散布して雪が積もることを防御する処置も行います。多くの空港関係者が、降雪時においても安全運航、定時運航を守るため厳寒の中、全力で作業をしていることを知っていただければ幸いです。

   北大博物館には雪と氷の基礎研究のパネルがあり、中谷の研究成果が航空機の安全運航に生かされていることが書かれています。中谷は『雪』という著書の中で「雪の結晶は、天から送られてきた手紙であるということが出来る。そしてその中の文句は結晶の形状及び模様という暗号で書かれているのである。」と書いています。これが冒頭の名言となったわけですが、技術の進歩により、この「手紙」をより深く読み取ることで、航空機がさらに安全に運航できる時代が来ることを期待しています。

  (元AIRDO社長)

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